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マネジメントの力で良くしてみよう

ハチでさえゴールイメージを持つ

マネジメントでは、「どうしたいのかという想いを知る」ことが大切です。でもこれが忘れ去られています。

目標を設定していない企業がほとんどないでしょう。ところが、「どうしたいのか」という想いを数値目標に置き換えている企業はほとんどないと思います。おそらく前年の実績にいくらか上乗せして「目標」にしている、そんな感じじゃないでしょうか。過去の実績値をもとに計算して目標を設定したことに慣れてしまうと、Excelで表にしたら目標ができると勘違いしてしまうのでしょう。これを長年続けていると、未来を想いを描くことを忘れてしまうようです。

「あなたは、(会社や部署を)どうしたいのですか?」

と質問しても、なかなか答えが返ってきません。

「そう言われても、どうしたいかなんて、考えたことありません」というものです。

 

しかし、未来を想うことは誰にでもできることです。何もないところから創業したカリスマのような経営者や凄い実績をあげたリーダーだけに与えられた力ではありません。

 

今日は、世界中で「未来を想い描く」という行動が1つでも多く行われることを願って、ちょっと変わった切り口から書こうと思います。それは、

「ハチだってゴールイメージを持てるのだから、人間も負けている場合ではないですよ」というものです。大袈裟に言えば、想いを描くのを忘れ、パソコンで計算した数値をゴールイメージと勘違いしているヒトへの警鐘です。

 

昆虫にも脳があることをご存知ですか。「昆虫の脳がマネジメントとどう関係あるのか」と思うかもしれませんが、しばらくお付き合い下さい。

体長が小さい昆虫は、脳の大きさも機能もヒトとは比べものになりませんが、素晴らしい働きをしています。昆虫の研究については、『昆虫記』で知られる、ジャン・アンリ・ファーブルが有名です。そのなかでもジガバチの観察が非常に興味深いので、その観察実験から昆虫の脳の働きについて、ご紹介しましょう。

ジガバチとは、体長わずか2cmほどで、日本全土に分布している蜂です。単独行動でアオムシやバッタなどを捕獲し、草がなく陽が当たる地面に巣を掘って生息しています。巣は深さ約5cmの縦穴で、底が小さな部屋になっただけの簡単なものです。ミツバチなどのように永久的な住居ではなく、卵を持ち歩いて気に入った場所に巣を作り、少しずつ卵を宿して育てます。

 

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ジガバチの生態で最も興味深いのは、「餌を獲ってから、巣に帰るときの行動」にあります。ジガバチは、獲物を巣に持ち帰って子供のエサにします。巣から遠く離れて狩りをしたら確実に巣に戻らなければならないのです。そのため、確実に巣まで帰って来られるように、巣を離れるときに上空を飛び回って、周囲の環境を脳にインプットします。つまり、ゴールイメージを脳の中に作り上げてから狩りに出かけるのです。そして、獲物を捕獲した場所から、そのイメージを頼りに巣まで帰ってきます。

 

このイメージに基づいて行動する力は強力です。巣から獲物までの方向や距離はさまざまであり、エサに向かって一直線に飛んでいく訳ではありませんから、巣からどの方向にどれだけ離れたのかを記憶しておくのは簡単ではありません。人間でさえ何か目印になるものを残しておかないと巣を見つけることは困難です。ジガバチは一日中巣から離れて過ごしたとしても、確実に巣に戻ることができるというから驚きです。わずか数mmの脳しか持たないジガバチでさえ、巣の周囲の環境というゴールイメージをつくって、それを頼りに行動をとることができるのです

 

もちろんジガバチの脳は割と単純なところで限界を迎えます。ジガバチが巣から飛び立ったあと、巣の周囲の環境のうち特徴的なところを変えてしまうと、ジガバチは巣の正確な場所を掴めなくなり、巣を見つけることが困難になります。さらに、ジガバチは巣の外に一旦エサを置き、巣のなかの安全を確認してから、外に置いてあるエサを巣のなかに運ぶという行動をとりますが、ジガバチが巣のなかの安全を確認しているうちに、エサの場所を移動してしまうと、ジガバチはサイクルが狂わされ、もう一度、見つけたエサを巣の外に一旦置く、というところからやり直します。

 

このように、ジガバチの脳では状況の変化によるシミュレーションはうまくありません。しかし、進化の初期段階にある脳でさえ、巣の周囲の地形というゴールイメージをモデル化することができるのです。おそらく、これはジガバチの本能によるものでしょう。生き残るために与えられた能力です。

 

蜂に負けているわけにはいきません。ヒトが未来を描くのも本能です。生き残るために必要だから、与えられたのです。「こうしたい」というゴールイメージを、つねにはっきりと描こうではありませんか。

 

(参考図書)

  • 「ファーブル昆虫記(岩波文庫)」 
     ファーブル

マネジメントなんかしていない

ありがちな目標達成プロセス

多くの企業で目標達成プロセスは同じような状況になっています。今回はよく見られる目標達成プロセスを取り上げます。結論から申し上げると、これは、マネジメントではありません。マネジメントに不可欠な「成果を生み出す」機能がないからです。何と呼んでいいかわかりませんので、なんとなくそれっぽい、「結果管理」と言っておきます。その結果管理の現状を見てみましょう。細かい点で違いはありますが、概ね次のようになっています。

経営者が目標を決める

全社目標は経営者が決めます。担当する各部門を目標を立てるプロセスに参加させる企業もありますが、多くの企業では、目標設定の背景や数値の根拠などをあまり詳細に説明せず、最後は経営者が承認して、具体的な目標値が決定事項として各部門に示されます。

このとき、簡単に達成できそうな目標は設定されません。株主や金融機関などの利害関係者に認めてもらわなくてはなりませんし、未来はより大きな成果を上げなければならないという「成長路線の呪縛」があるからです。

目標を部下に割り当てる

次に、経営者は割り当てた部門目標の達成を、部長のような上級のマネジャーに指示します。営業部長に売上目標の達成が課される、というようなことです。割り当てられた目標は、業務命令ですので、マネジャーは部門目標の達成に向けて責任を持って取り組まなければなりません。そこで、どうするかというと、上級マネジャーは、部門の目標を分割し、課長のような部下に割り当てます。そして、課長は係長に、係長は担当者個人に、というように繰り返され、組織の下へ下へと割り当ては続いていきます。

目標の達成プロセスは部下が担う

これに伴って、目標をどうやって達成するのかについても同じように、組織の下へ下へと委ねられます。部門の方針のような大きな指針は決めるものの、具体的にどういう施策を積上げて目標達成するのかについては、事前に深く関与して、詳しく検討する上司は極めて少数派です。
マネジャーは、途中で報告書や管理表などを使って部下の活動を確認します。しかし、達成が難しい状況でも、発破をかけることはあっても、活動をどのように軌道修正するべきかについて、具体的に検討して実行させるマネジャーはほとんどいません。ほぼ、部下に丸投げされていると言えるでしょう。

目標を達成できない部下は叱責され反省を促される

月次や四半期などの節目になると、目標の達成状況を上司に報告します。部下は、結果や問題点、今後どのように挽回するのかなどを明らかにします。
このとき、達成できた部下は賞賛を受け、反対に、達成できなかった部下は、マネジャーから叱責を受けたり、反省を促されたり、評価を下げられたりします。これと同じことが、組織の上へ上へとあがっていきます。最終的には、各部門の長が経営者に報告し、責任を果たせたかどうかの審判を受けることになります。

 

もちろん、これにピッタリと当てはまらない企業もありますが、概ねこのような状況に近いのではないでしょうか。

 

これはマネジメントとは真逆

この状況は、いったいどういうことなのかについて、考えてみます。

状況を簡単に要約すると、ポイントは次の4点です。

  • 達成が難しい高い目標が課される
  • 上司は部下に目標を割り当てる
  • 達成プロセスは部下に丸投げする
  • 達成できなければ、叱責を受けたり反省を促されたりする

この状況には大きく3つの問題があります。

 

1. 部下にとって上司が絶対的な存在になる

部下に目標を割り当て、達成プロセスを丸投げして、達成できなければ後から叱る
このとき、「達成できない」という間違いは、常に部下が犯すことになります。つまり、上司は絶対に間違わないのです。実質的に、上司は部下に対して、「お前が悪い」と言っている訳です。叱るということはそういうことです。問題は自分にあると、上司が考えれば、叱ることはできないからです。

部下から見ると、この関係は苦痛です。表向きは、上司と部下の関係・秩序が保たれますが、もはや信頼関係は成り立たないでしょう。多くの部下は、上司との精神的な距離を保ち、冷ややかに上司を見ています。

2. 上司が問題解決能力を失っていく

この状況では、上司は具体的な問題解決に直接関わっていません。月単位などで要約された情報を、事後的に見る。これでは、事実を把握することも、どうすればうまくいくのか考えを巡らせることも、決断することもできなくなってしまいます。日々の事実の把握、熟慮と行動を積み重ねなければ、問題を解決する力はどんどん失われていきます。これを繰り返していると、マネジャーは、成果を上げるという本来の役割をまったく果たせない存在へと成り下がっていきます。

3. 経験が十分でない人が活動の主人公になる

マネジャーは能力や実績を評価されて、その職位につきます。つまり、通常、部下よりも上司の方が、実務経験もそのとき発揮できる能力も高いとみることができます。
ところが、目標を部下に割り当て、達成を丸投げする状況では、目標達成のために、考え行動する主たる人物は、部下なのです。戦力が高く、より豊富な経験を持った人がいるのに、その人が具体的に達成プロセスに関与せず、目標を後から他人事のように追いかけているわけです。

 

これらを見ると、成果が上がらないのは当たり前です。数年連続して売上が減少している、赤字が続いている企業であっても、こうした状況が原因の大きな一つになっていると考える経営者はあまりいません。つまり、多くの企業では、マネジメントなんかしていないのです。

 これは裏を返せば、マネジメントをすれば、他の要因が同じであっても、大きな成果が出る余地が十分残っているということです。マネジメントは、人の営みですから、タダです。意識と行動を変えるのに、原則的に費用はかかりません。

 

私は、何としてもマネジメントへの正しい理解を広げたいと思うのです。

 

マネジメントとは何か

よくわからないマネジメント

「マネジメント」という言葉をよく耳にします。ときには「マネージメント」と、いかにも日本語らしく言う方もいますが、いずれにしても、「マネジメント」は、ビジネスの場面を中心に、日常生活でもかなり浸透している言葉です。リスクマネジメント、セルフマネジメントをはじめ、〇〇マネジメントなんてよく言いますからね。

これをお読みいただいているあなたも「マネジメント」という言葉はご存じですよね?

しかし、その「マネジメント」がいかなるものなのか、きちんと説明できる人に会ったことがありません。みんな「マネジメント」と当たり前のように言うけれど、いったい何のことを言っているのかよくわからないのです。

 

仕事でご一緒する経営者や管理職を中心に、いろいろな方に質問をしてみました。

「マネジメントとは何ですか?」

あなたなら、この問いにどう答えますか?

感覚的で申し訳ありませんが、約8割以上の方が、次のどちらかを答えます。

「管理」
PDCA

この答えをきいてもチンプンカンプンです。管理とは何をすることなのか、どういう状態になれば、PDCAができているのか、やはりよくわかりません。

「どうしてそう思うのですか?」

と更に質問してみると、これまた不思議なことに、誰もきちんと答えられません。マネジメントの父と言われるピーター・ドラッカーがそう言っているのなら、仕方がないと思いますが、ドラッカーは、マネジメントを「管理」や「PDCA」などと同じように論じたことは一度もありません。(そのはずです)それでも、多くの方が、同じように認識しているのは、不思議でなりません。
私も偉そうなことは言えません。少し前まではそうでしたからね。

これはあくまで私の推測ですが、人には語感で意味を解釈する傾向があるのではないかと思います。つまり、「リスクマネジメント」とか「セルフマネジメント」などという言葉を聞いて、何となく「マネジメントとはそんなものではないか」と理解しているのだと思います。何となく理解しているから、それを強く意識することもありませんし、深く考える機会もなかった、ということだと思います。

 

マネジメントは凄い

「『マネジメント』がどのように理解されていても、いいではないか」
という声が聞こえてきそうです。しかし、私はそうは思いません。とてももったいないことだと思います。何かがうまくいかないとき、その原因が「マネジメントにある」などと言う人は、ほとんどいません。理解されていないから、マネジメントに注意が払われることもないのです。

会社経営であれば、「優秀な人材がいない」、「(規模が)小さい」、スポーツや勉強であれば、「運動神経が悪い」、「頭がよくない」とか「努力が足りない」などと、気になることや目立つことばかりが言い訳のように取り上げられ、そう言うことでそれ以上考えなくて済んでしまいます。

でも、間違いなく言えることは、マネジメント次第で結果が大きく変わります。

情報システム投資をしたわけでも、大企業と提携したわけでもなく、もちろん人材が入れ替わった訳でもないのに、売上高が飛躍的に上がったり、史上最高益を上げたりします。個人的な活動でも同じです。勉強の成績が良い、スポーツのパフォーマンスが高いという人たちには、才能と努力以外にも、マネジメントの要素がいくつも転がっています。

カギは「人の取組み」です。人の取組みが変われば、結果が大きく変わります。それを可能にするのがマネジメントだと思います。しかも、マネジメントは無料です。人が活動を変えるのに、基本的に費用はかかりません。マネジメントが機能することによる効果が高いのに、コストはゼロ。こんな美味しい話はないように思うかもしれませんが、マネジメントは凄いのです。

 

マネジメントにあたりをつけてみる

マネジメントを探求するのが、私のライフワークであり、このブログの目的の一つです。ですから、「マネジメントとは何か」と現時点で、はっきりと定義することはできません。それでも、マネジメントを「ただ得体の知れないもの」とするのでは、マネジメントに携わる仕事をして、四六時中、マネジメントを考えている者としては、いかにも情けないので、最初にマネジメントにあたりをつけておきます。

マネジメントを一言で表すと次のようになります。

人々の相互作用を通じて、望む将来を実現するための知恵であり技能である

自分でいうのも何ですが、どうも抽象的です。マネジメントをする人、実現する将来像、そして取り巻く環境などによって、何をどのようにすべきかが大きく変わるため、一般化すると、どうしてもこうなります。これからブログを書き進めていく過程で、具体的に掘り下げていきます。そんなマネジメントですが、私なりのフレームワークを最後に示して、今回は終わりにします。
私は、マネジメントを次の5つの行動で整理しています。

  1. 規律を守る Discipline
  2. どうしたいのかという想いを知る Identify
  3. 十分に段取りする Prepare
  4. 質の高い行動を起こす Generate
  5. すぐに振り返って改良する Reflect

マネジメントは具体的な成果を上げることを使命とするものだと思います。具体的なものを一般化しようとすると、どうしても、「目の前の問題には、そのまま適用できない」ということが起こります。反対に、具体的なものをかき集めるだけでは、「ゼロから考えないといけない」という効率の悪さを受け容れなければなりません。そこで、具体的に見たことや聞いたことと、その背後にある一般化された原理や原則を行ったり来たりしながら、マネジメントの探究を進めていきます。きっと、絶対的な解を見出すときは来ないでしょうが、だから面白いのでしょう。

 

 

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