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目標に根拠は必要なのか?

今回は、マネジメントのうち「目標」のお話です。

「目標」を設定していない企業はほとんどないでしょう。「予算」や「ノルマ」など、呼び方は企業によって違うかもしれませんが、達成すべき何らかの数値を決めていると思います。達成が難しい目標に対して、よく耳にする管理職の嘆きの1つが、

「目標の根拠がわからない」

というものです。あなたも同じような思いを感じたことがありますか?
もう、どれだけの人から聞いたかわからないほどよく聞いています。ここには、「目標には根拠がなければならない」という前提があることになります。果たして本当にそうでしょうか。

 

この問いの答えについてよく考える前に、「目標の根拠」とは、いったい何のことを言っているのかをはっきりさせないと方向性を間違ってしまいます。
管理職の方々が言う「目標の根拠」とは「どういう理由でこの目標になったのか」ということではありません。正確に表現すると、「どうしてこの目標が達成できるといえるのか」ということです。なぜなら、目標が達成できそうだと思える場合、こういう嘆きが口にされることがないからです。

 

あなたはどう思いますか? 目標の根拠、つまり、目標には「達成できると言える拠りどころ」が必要でしょうか。
もちろん、「根拠があるか」と言いたくなる気持ちはわかります。それだけ責任を持って目標達成に取り組もうとしている証拠でもありますので、こう言いたくなるのは悪いことばかりでもありません。

しかし、結論から言えば、マネジメントでは、「達成できると言える拠りどころ」という意味で、目標に根拠は必要ありません。というよりも、誰にでも納得できる根拠などというものはありませんし、そんなものに意味はありません。


例えば、次のような話はいかがでしょうか。

ある食品スーパーが、来年の売上目標を今期実績の110%に設定したとします。その背景には信頼できる研究機関の調査があり、来年は大型マンションの相次ぐ竣工で、人口の増加が見込まれ、商圏市場が10%拡大することが予想されていたとしましょう。

この調査結果を根拠に売上目標を設定した場合、先程の売上目標に納得できますか?

 

さらに、競合他社である地元スーパーが、複数の店舗で10年ぶりに大規模な改装を行い、新しいお客様層のニーズに合わせた魅力的な売場づくりを進行させていることがわかりました。この影響を正確に測ることはできませんが、少なからず影響を受けることが予想できたとします。

あなたは先程の売上目標に納得できますか?

 

極めつけに、次のようなニュースが飛び込んできた場合はどうなるでしょうか。大手の総合スーパーが、この商圏の市場拡大を見込んで、大型店舗の出店を計画していることがわかりました。この店舗は商品の数や種類において自社を圧倒的に凌駕しており、間違いなく大きく苦戦をしいられることが予想できます。

あなた先程の売上目標に納得できますか?

もし、商圏市場が10%拡大することが予想されるという調査結果だけを認識していたのであれば、前年の110%に設定した売上目標の根拠が受け入れられるのかもしれません。しかし、地元スーパーの大規模改装や大手総合スーパーの新規出店という事実を認識した場合はどうでしょう。売上にマイナスの影響を与えるこれらの事象を知ったら、やはり前年の110%に設定した売上目標に納得いかないのではないでしょうか。

 

このように、ある特定の事象を取り上げて、それを目標の根拠にしたとしても、本当の意味での根拠にはなり得ません。それは無数にある要因のなかから認識できたもの、もしくは認識したいものを挙げて、それを根拠だと言っているに過ぎないからです。

もちろん、例に挙げた大手総合スーパーの新規出店のような、業績に大きな影響を与える可能性が高い事象は、活動を計画する際には十分に考慮しなければなりません。

しかし、一部の事象を取り上げて水準を引き上げたり、引き下げたりした目標は、もはや目標ではなく、「こうなるであろう」と結果を前もって推し量った「予測」にすぎません。

目標に根拠を持たせる、つまり達成できることを合理的に説明できる事実を集めれば集めるほど、このまま活動していけば、こうなるであろうということを追い求めていることになります。これにどのような価値があるのでしょうか。予測したとおりの結果を出して、それを成果だと言えるでしょうか。そんな、「起こることが合理的に予想される未来」なんて、別にあなたではなくても、誰がやっても、成り行きでそうなるのです。

 

目標とは「価値基準を決めている」ことに他なりません。価値基準ですから、絶対的に正しいものなどというのはないのです。だからこそ、「これで正しい」と感じることを目標の背後に見出さなければなりません。

 

「目標の根拠がわからない」などというのは、今日で止めてしまいましょう。