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マネジメントの力で良くしてみよう

協力をお願いする

よくアドバイスを求められることの一つに、「目標を割り振っても、部下が本気で達成しようとしない。どうしたらよいのか」というのがあります。
このとき、よく検討されるのが、外的な刺激や環境によって人を何とかしようとする方法です。例えば、毎週詳細な報告書を提出させるとか、大勢の前で厳しく叱責するとか、罰を与えるなんて物騒なのもあります。
人はときに物事を難しく考えすぎるきらいがあります。「どうしたら部下がモチベーションを上げて、目標を達成しようとするのか」なんて難しいことを考える前に、ストレートに部下に協力を求めるのです。「あるべき姿の実現に協力して欲しい。一緒になって取り組んでくれないか」と。もちろん伝え方はマネジャー自身の言葉でなければなりません。まさに、新約聖書『マタイ伝』の有名な言葉「求めよ、さらば与えられん」のように、自ら求めなければなりません。

ところが、多くのマネジャーは言葉にして部下に協力を求めたりしません。なぜでしょうか。ちょっと考えてみましょう。

真っ先に思いつくのは、「仕事なんだから、やって当たり前。お願いなどする必要はない」というものです。部下が協力するとか、しないとかにかかわらず、それが部下の仕事なんだから、普通、一所懸命やるのが当然だという考えです。本当にやって当たり前でしょうか。これは、働くということを、単に労働の提供と対価としての給料の支払という関係だけで捉えていることと同じです。この考え方が行き過ぎると、部下をいつでも取り替え可能な経営資源の一つとしか見ないようになります。「いつ辞めてもらっても構わない。代わりはいくらでもいるんだ」このような発言を耳にすることはそう珍しくありません。これは部下を人として軽んじていて、マネジャーは部下を使う人、部下は仕事を押し付けられる人という関係になってしまいます。あなたの周りにも「あいつ使えない」というようなマネジャーはいませんか。そういう関係で仕事をしていて、部下が心からあるべき姿の実現に協力してくれると思いますか?

また、これまで言葉にして部下に協力を求めたことがないため、何となく協力をお願いしにくいというマネジャーもいるでしょう。そういうマネジャーには、再度確認したいことがあります。それは、「本当にあるべき姿を実現させることを心に決めたのですか?」ということです。部下に協力をお願いしにくいなどと言っていられるとすると、おそらく「あるべき姿を実現する」と心に決めた状態にまで達していないと思います。照れくさいとかバツが悪いという感覚が心にある場合、大きな成果など上げられないと思います。そういうときは、今一度、あるべき姿を本当に実現させたいのか自問自答を繰り返し、心に決めなければならないでしょう。心が決まれば、部下に協力を求めることくらい容易いはずです。

これくらい書けば、これまで部下に協力をお願いしていなかったマネジャーも、「ちょっとお願いしてみるか」という気を起こしてくれたのではないかと期待します。私は一つでも多くの組織で、マネジャーと部下との協力関係が出来上がることを心から望みます。まだその気になれないマネジャーがいるかもしれませんので、もう少し寄り切ってみましょう。

マネジャーが部下に協力を求めるということは、チームワークの本質なのです。これについて、マサチューセッツ工科大学スローン経営大学院の名誉教授であるエドガー・H・シャイン氏は、『人を助けるとはどういうことか―本当の協力関係をつくる七つの原則」(邦題)のなかで、外科医とスタッフからなるチームの例を挙げて次のように説いています。

 

 重要なのは、支援が本当に必要だと外科医が認識し、それを口に出して認めることである。そうすれば、ほかのメンバーはより高い地位に引き上げられ、その結果、一連の進行にもっと貢献しようという意欲を高められる。・・・(中略)・・・外科医が指示者ではなくパートナーになれるという能力は重要だ

 

私も何度となく同じような状況をマネジメント改革の現場で見ました。このような協力関係で部下と一緒に仕事に取り組みたいとは思いませんか。是非、今日からでも部下に協力をお願いし、あるべき姿の実現に皆で取り組むもうではありませんか。