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マネジメントの力で良くしてみよう

協力に感謝する

誰でも一度は後輩や部下に食事をご馳走したことがあるでしょう。食事をご馳走した翌朝、彼らが何事もなく、ただ「おはようございます」とだけ挨拶して席に着いたら、あなたはどう思うでしょうか?
おそらく、口に出すかどうかは別にしても、多くの人が、「なんて非常識なやつだ。『昨日はご馳走様でした』くらいあって当然だろう」と思うのではないでしょうか。逆に、感謝を示す言葉が聞けると、『いいんだよ』などと言いながらも、誇らしいというか嬉しいというか、何とも言えない充実感のような気持ちになると思います。
ここに人の自然な心の動きが表れています。つまり、人のために何かをしてあげたら、その人は、相手から感謝の気持ちが示されるのを期待するということです。

もし、この期待に反して、相手が感謝の気持ちは示さなかったら、どうなるでしょうか。程度の差こそあれ、相手に失望したり、不快感を覚えたりするのではないでしょうか。食事をご馳走したのに感謝の気持ちを示さない後輩や部下に対して、「常識がない」と感じるかもしれません。もしこのような期待はずれが繰り返されると、きっと「もうご馳走するのをやめるか」と考えることすらあると思います。
人は元来、「誰かのためになりたい」という気持ちを持っていて、その気持に添って行動した場合、相手から感謝の気持ちが示されるとシンプルに嬉しいと感じ、示されなければ残念に思う。そういうものなのではないでしょうか。

 

では、マネジャーがあるべき姿を実現させるために、部下にある特定の役割や業務への協力をお願いしたとします。そして、部下がそのお願いに応えて、一所懸命に業務に取り組んでくれたとき、マネジャーが感謝の気持ちをその部下に伝えなかったら、部下はどういう気持ちになりますでしょうか。

こういう話を客観的に聞くと、何となくわかりやすいと思いますが、自分自身のこととなると、なかなか気づきません。部下に感謝の気持ちを示す管理職がなんと少ないことか。非常に残念でなりません。なぜ管理職は部下に感謝の気持ちを示さないのか。
業務において、部下に「これやっておいて」などと「お願い」したとしても、管理職はそれが協力のお願いだと思っていないからではないでしょうか。これもやはり「仕事だからやって当たり前」という感覚で、業務指示を出したと無意識のうちに考えているからだと思います。
これでは、「部下が思うように動いてくれない」のも頷けます。

ここで注意したいのは、「感謝」は手段や技術ではないということです。たまに、部下を思うように動かすために、感謝の意を口に出す方がいますが、人を操作するための謝意は、まったく感謝の気持ちが示されなかったときよりも悪いと考えた方がよいでしょう。部下を思いのままに動かそうと上辺だけで感謝の気持ちを示していたら、必ずどこかで感謝の気持ちとは矛盾する場面が訪れます。そのような下心を出さす、本心から部下に感謝の気持ちを示すようにしてあげて下さい。

ここまで暗黙の前提としてきましたが、部下の協力に感謝をしようと思うと、部下がしてくれた協力をきちんと把握しておかなければなりません。そのためには部下の活動がわかるようにして必要があります。手を抜く管理職は、成果が上がったときには「ありがとう」と伝えるものの、そうでなかったときは反応しないということがありますが、これはまったくの間違いです。感謝の対象は、成果ではなく行動そのものです。うまくいったときには謝意を示し、そうでなかたときは何事もなかったようにする、これでは本当に感謝していることにはなりません。
ちなみに、組織力強化プロジェクトでは、原則として、部下と毎日短時間でのミーティングを実施していただくことにしています。これは、日々の業務について、部下と一緒に問題解決に取り組みながら、協力のお願いと感謝を伝える場として使っていただくためです。時折、「忙しくて毎日部下とミーティングする時間がない」というマネジャーがいますが、認識が逆だと思います。部下に協力をお願いし、また行動に感謝するという機会は、忙しく業務を行うなかで時間があったらやることなどという位置付けのものではありません。あるべき姿の実現に部下が邁進してくれるようにするための行動ですから、むしろ、部下と話すために他の業務を何とか効率的に行うと考えるべきものだと思います。