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マネジメントの力で良くしてみよう

質の悪い仕事

今日は行動のお話です。
あなたも経験があると思います。「不用意な発言によって相手を傷つけてしまった」ということが。こんなときは、「あぁ、あんなこと言うんじゃなかった」と後悔すると思います。もし、その人と良い関係を築いていきたいのなら、素直に謝るなどして、間違いを認めた方がいいでしょう。このような発言は、「質が悪い行動」だったと言えます。どうして質が悪いと判断できるのかというと、不用意な発言によって、相手が「嫌な顔をした」とか「怒り出した」というように、「まずい」とわかるからですね。

ところが、仕事の場面では、質の悪い行動をしているのに、それがよくわからないが故に、繰り返されてしまう、ということが起こっています。今回は、世の中に溢れかえる質の悪い仕事について考えてみます。

次に紹介するのは製造業を営むある会社の営業部門の出来事です。ちなみに、これは「A Day in the Life」という、ある一人の仕事を一日観察することで、事実や認識を明らかにするという調査によるものです。

ある営業マンは、車で片道50分かけて得意先を訪問しました。到着すると先方の担当者は外出していて不在です。その営業マンは、訪問の証として、対応した女性に、通算しておよそ10枚目にもなる名刺を渡して、次の取引先に向かいました。営業車に同乗していた私は途中でその営業マンに尋ねました。

「先方の担当者が不在でしたが、どういう約束だったのですか」

するとその営業マンは答えます。

「約束はしてませんよ。今、うちの会社では訪問件数を増やそうという取組みをしているので、アポなんか取っていたら訪問件数を増やしにくいじゃないですか。それに日報に不在と書いても課長から何も言われないので、いいんじゃないですか」

私はさらに質問します。
「訪問件数を増やそうとする取組みは、何のためにやっているのですか」

営業マンは答えます。
「何のため?・・・契約を取るためじゃないですか。さっきの取引先は、大口の取引先なので定期的に訪問するんです。顔を見せるだけでいいというか、訪問して大切にしているということを示せばいいんですよ」

私の頭のなかは疑問で一杯になりながら、次の質問をしてみました。

「次に行く取引先は、今日、どうして訪問するのですか?」

営業マンはさらに答えてくれました。「次の先の担当者とは良い人間関係が出来ていて、正直、行きやすいんですよね。そんなに取引は大きくないんですけどね。訪問件数を増やさないといけないから・・・」

 

また別の営業マンとの同行では次のようなことがありました。
その営業マンは、新商品の導入を提案する商談でプレゼンをすることになりました。会場となる得意先の会議室に到着して、席につくと、想定していた人数以上の出席者がいたので、使用する資料が2部足りないことに気付きます。取引先の役職の偉い人から資料が配られ、肝心の現場担当者とその直属の上司は手元の資料がなく、スクリーンに写されたスライドだけを見て提案内容を理解するという状況で商談が進みました。
ところが、スライドはページの至るところが小さな文字で埋め尽くされ広い会議室では、その文字がまったくと言っていいほど読めません。しかも提案資料は40ページにもわたり、営業マンが早口で説明しているので、何が言いたいのかよくわかりません。スライドは約束の1時間の商談ではすべて説明することができず、最後の10ページは全く触れませんでした。帰り際に、先方の現場担当者が営業マンに近寄ってきて言いました。
「ちょっと、今日の提案はよくわからなかったので、後日、もう一度説明してもらってもいいですか?」

会社の帰路で、私は営業マンに質問しました。
「今日のプレゼンは、どういう計画だったのですか?」
営業マンはばつが悪そうに答えます。
「商談の約束をとりつけたんですが、細かい内容とかはすり合わせていないですよ。いつも会う主任から、課長が出席することは聞いていたんですが、まさか部長とかまで来ると思いませんでした。資料も、社内勉強会のやつを昨日加工したんですけど、うまく説明できなかったですね」

 

この営業マンの話はほんの一例です。その他にも、秋冬商品が入荷し店頭での販売が始まっているにも関わらず、販促ツールの新商品カタログが店舗に届いていなかったり、月次で品質保証部に提出するばずの不具合報告書が2ヶ月提出されず、設計上の不具合が改善されないまま、不具合のある製品を製造していたりなど、この類の話は世の中の至るところで起こっています。

いかがでしょうか。あなたの周りでも日々、同じようなことが行われているのではないでしょうか。
これらの仕事が厄介なのは、「まずい」ということがわかりにくいということです。当事者本人は皆「何となく良くない」ということはわかっていても、「もう二度とやってはいけない」という程の問題だとは認識していません。ですから、上司であるマネジャーにも報告されないので、マネジャーは、この事実を知ることすらできないのです。
これだけは、自信をもって断言できますが、「質の悪い仕事」は必ず、「必ず」ですよ、あなたが今日行った仕事にもあります。間違いなく、明日行う仕事にもあるでしょう。もちろん、私の仕事にもあります。そう思うことが、質の悪い仕事を減らす出発ではないでしょうか。