× マネジメント

マネジメントの力で良くしてみよう

現状をどう捉えるか

「いま」をどう見るか、というお話です。

期待どおりの結果が出せない部下に対して、上司がきつく当たる場面をよく目の当たりにします。会議のように、大勢がいる場で、厳しい言葉で、行動だけでなく人格まで否定されているように思える光景をみることすらあります。「だから、何回言ってもわからないヤツだな」
「もっと考えろよ。考えればわかることだろうっ」
「あなたの代わりはいくらでもいるんだよ」
こんな発言も珍しくありません。

 

でも、成果が上がっていてもいなくても、人は自分の現状を肯定的に捉えていることが多いように思います。「それなりに精一杯やってきた」というような感覚です。まあ、そう思わないと、長い人生やっていけないのだと思います。ですから、上司から現状を否定されても、すんなりと受け入れることはあまりできません。否定された部下の方とも個別にミーティングをすることがありますが、ほとんど例外なく、自分の現状の「まずさ」よりも、厳しい言葉をぶつけてきた上司の問題点を口にします。ミーティングでは、「まあまあ、それより矢印を自分に向けましょう」と自責の姿勢を促しますが、収まることはほとんどありません。

こういった態度はダメだという見方もあると思いますが、人が協力して成果を上げるということを考えると、そうも言っていられません。

 

これから書くことは、ある経営者に教わったことです。素敵な見方ですので、改めて書いてみます。こんな感じであったと記憶しています。

「人の現状は絶対に否定してはいけないんです。それは部下であっても、生徒であっても、子供あっても同じ。その人が今までやってきた行動には、それなりの考えや価値観がある。期待どおりではないかもしれませんが、それでも、その行動には理があるんです。結果が悪くても、考えや価値観を変えようなどとは思わない。変えたくないんじゃなくて、そういう発想にならないんです。だから否定しても、行動が変わることがない。もし変わったとしても、それは表面的なものです。その方が責められないからです。そうではなくて、良くない結果を『良かったね』と言ってあげるんですよ。良くないことがわかったんですから。そこを変えればいいんだ、一緒に変えよう、とね。現状のままではダメですが、現状をダメと言ってはいけないんです」

 

これはとても考えさせられる言葉でした。かつて働いていたコンサルティング会社では、「問題点を見つけても得意になるな。深い悲しみをもって、クライアントの問題点を見つめろ」という教えがありましたが、これらは同じ思想ではないかと思わされました。

これ以来、現状をどうみるかにについて、ずっと考えてきました。マネジメントという視点から、現時点では次のように考えています。

 

あるべき姿を描くということは、つねに現状よりも高い水準を目指している、ということになります。つまり、現状は常に「十分ではない」わけです。マネジメントに携わる者は、この状態に慣れなければなりません。現状のままではダメというのが常なのです。そうすると、現状の見方が変わります。現状を否定しても仕方ないということです。意味がない。だって、常に「足りていない状態」ですから。たとえ満足できない部下の行動を見ても、否定するのはやめましょう。むしろ、「良かったね」と本気で言ってあげることが、部下が「矢印を自分に向けるスイッチ」になるのだと思います。意識を集中させるべきは、あるべき姿と現状のギャップの方です。部下の現状を否定することで、意識を現状に留めてはいけないのだと思います。