課題を分ける
全体から要素に分ける
「課題を分ける」ことは、あまり行われません。当たり前ですが、「分ける」というのは、大きなものを小さくするという意味です。なぜ、「あまり行われないのか」というと、課題について考える場合、個別の課題に気づいたり、洗い出したりすることはあっても、大きな課題を設定し、それを分けるということをしないからです。課題が頭に思い浮かんだときに、すでに小さいのだから、「分ける」という発想にはなりません。
マネジメントの場合、意図した成果を上げなければなりませんので、パッと頭に思い浮かんだ小さい課題から出発してはいけません。それでは、課題と成果の関係がわからず、本当にクリアすべき課題なのか、本当に取組むべき課題なのかがわかりません。これでは、限られた人や時間の制約のなかで、十分に段取りをすることができません。
前回の記事でも書きましたが、課題は、「あるべき姿と現状とのギャップを埋める」という最も大きいものからスタートしなければなりません。最初に全体をみて、それを構成要素に分けていく。逆に、構成要素を足し合わせていけば、当然、出発点であった全体像、つまり、あるべき姿と現状とのギャップが埋まる、ということになります。小さくした課題が、必ず全体像と繋がっている、課題を認識するときは、この構造が大切です。
なぜ課題を分けるのか
どのように分けるかを考える前に、なぜ分けるのかを考えます。「なぜ」を考えなければ本質はわからないからです。「どのように」が表面的なものになってしまいます。さて、なぜ課題を分けるのか。ものごとは反対から考えるとわかりやすいときがありますよね。ここでも逆から考えてみます。
もし、「あるべき姿と現状とのギャップを埋める」という大きな課題を分けずに、「やるべきこと」を導き出そうとすると、どうなるのか?
例えば、売上高を1億円増やす、というのが課題であった場合で考えてみます。売上を1億円増やすために、何をやるべきかと考えると、誰でもいくつか思いつくでしょう。
- 値引きをする
- 飛び込み営業をする
- チラシを打つ
- 有名人のイベントを開く
- セット販売をする
- 電話セールスをする
まあ、こんな感じでしょうか。何の関連性もなく思いつくままに挙げてみました。どれも売上増加に貢献する気もしますが、効率が悪そうな気もします。では、「飛び込み営業をする」をとりあげて、もう少し考えてみます。
飛び込み営業をするにも、いったい、誰のところに行けばいいのか、何を売ればいいのか、いつ行けばいいのか、何件行けばいいのか、どういうトークをすればいいのか、そして、どれくらいの売上が取れそうか、これらが決まらなければ、成果をあげるために必要な「やるべきこと」が導き出せたとは言えません。しかし、「売上高を1億円増やす」という大きな課題をベースに考えると、これらの要件は具体的に決められません。なぜなら根拠がないからです。商品という切り口から売上高を考えても、定番商品なのか季節商品なのかによって取組が異なります。また、お客様という切り口から売上高を考えても、新規のお客様なのか、既存のお客様なのか、既存のお客様でも、ライトユーザーもヘビーユーザーいます。どのお客様を対象にするかによって、「やるべきこと」は大きく異なるでしょう。
つまり、いろいろな課題が混在した大きな課題のままでは、成果をあげるのに有効な「やるべきこと」が導き出せません。思いつきと何ら変わらない行動で、しかも、これまでとさほど変わらないことしか出てきません。同じ思考回路からは同じような発想しか出てこないものです。したがって、課題は「もうこれ以上小さくする意味がない」というレベルまで分ける。これが成果をあげるポイントだと思います。
どのように分けるのか
課題を分けるのは、意図した成果を上げるのに有効な「やるべきこと」を導き出すためです。
ここでも論理の力が効力を発揮します。「論理的に考える」とは、自分勝手な考えや一時的な感情で頭に浮かんだことではなく、すべてのものにあてはまる真理にもとづいて考える、価値観や文化の違いを超えて、広く認められたフォーマットで考える、ということです。そうすることによって、発想に広がりが生まれ、考えが整理できます。
私は、よくお風呂で子供と「山手線ゲーム」のような遊びをします。都道府県を全部言わないと湯船から上がれないというようなゲームです。このとき、ランダムに都道府県名を挙げていったのでは、漏れやダブりが連発し、なかなか風呂から上がれません。ところが、「東北地方」とか「太平洋側から」などと、分類したり法則を設けたりすると、漏れもダブりもなく簡単に挙げることができます。
課題を分けるのも、このゲームとまったく同じです。
「売上高」を考えた場合、いくつかの分け方があります。例えば、ざっと挙げても、以下のようなものが考えられるでしょう。
- 「客単価」と「客数」
- 「商品価格」と「数量」
- 「ランチタイム」と「ディナータイム」
- 「自宅用」と「ギフト」
- 「見積発行件数」と「成約率」
業界によっても異なりますし、戦略によっても異なりますが、とにかく無数の分け方が考えられます。大きな課題をある切り口から分けて、小さな課題にしたら、またその課題を分けるようにします。上の例でいえば、「客単価」と「客数」に分けてみたら、次に、「客数」をさらに分けてみるということです。例えば、「会員様の数」、「会員ではないが定期的に来るお客様の数」、そしえ「一見客の数」というようにです。切り口がすっきりしなければ、別の切り口を考えればいいのです。そして、もう分けなくてもいいだろう、つまり、「やるべきこと」は同じだなと思ったら、課題を分けるのをやめる、ということです。
何事も同じですが、課題を分けることを繰り返していれば、うまくなります。目標を設定し、これまで通りにやったら、どれだけ足りないのかが見えてきたら、迷わず、課題を分けてください。それが目標達成の設計図になります。