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マネジメントの力で良くしてみよう

ヒトの進化と段取り

書き溜めた「マネジメントに関するのメモ」を順番どおりにブログにしていても、あまり面白くないので、今回は、ちょっと飛んで、段取りに関することを書きます。

あるべき姿を実現するためには、それに相応しい段取りを行わなければなりません。「あるべき姿」というくらいですから、簡単には実現できません。そのときの実力水準を超えたレベルを目指すことになるのです。ですから、何の段取りもなしに、これまでと同じことを同じようにやっていたら、実現できるはずがありません。

人前でスピーチをする場合でさえ、何の話をしようかと考えたり、話の流れを組み立てたりなど必要な準備をすると思います。あるべき姿を実現する場合も同じです。ただ、そのための段取りとなると、そう簡単ではありません。ここで必要な段取りというと、実現させたい状況を想像し、そのためにやらなければならないことを想像し、相手がいる場合にはその人の心理状態を想像し、必要な道具を想像し、行動した結果や次の展開を想像する、というように想像に想像を重ねたシミュレーションになります。

このように表現するととても難しく、できそうにないと思う方もいるかもしれませんが、ご心配には及びません。この「想像に想像を重ねる」という行為は、ヒトとその他の動物とのギャップを飛び越えさせた要因であり、すべての人に授けられた能力だからです。

クイーンズランド大学の心理学教授であるトーマス・ズデンドルフ氏は、名著『現実を生きるサル 空想を語るヒト―人間と動物をへだてる、たった二つの違い』のなかで、他の動物とヒトとのギャップを生じさせたのは、「入れ子構造を持つシナリオ構築能力」と「心を他者と結び付けたいという衝動」の二つの特性によるものだと論じています。ズデンドルフ氏によれば、ヒトだけが、人や物、行動などの基本的な要素を組み合わせ、「仮にこの場合はどうなるか」という想像をいくつも積み重ねて、壮大で複雑なシミュレーションを作り上げることができるとしています。そして、この能力は、心を他者と結び付けたいという衝動によって、より大きなものとなっていきます。それは、一人ひとりでは見込みを誤ったり、間違った期待を抱いたり、ときには混乱したりしてしまうこともありますが、他者の心と結び付けることによって、助言を聞き、意見や感想を求めることで、シナリオの精度を大幅に高められることを見出したといいます。この二つの特性のおかげで、他の動物が行きつけなかったところへヒトは突き進めたとしています。

「十分に段取りをする」ということは、まさに、想像に想像を重ねて、あるべき姿を実現するためのシナリオをつくり、仲間と積極的に心を結び付けてシナリオを充実させようとすることに他なりません。これらの特性がヒトの進化を牽引したように、望んだことを実現する原動力になるのでしょう。

マネジメントの本質は、現代になって生み出されたのではなく、古くから人が本能的にやってきたことなのではないかと思います。つまり、すべての人に備わっている力なのでしょう。なかなかうまくいかないときも、諦めず、面倒臭がらずに考え抜き、他者の意見に耳を傾ける、少なくとも20万年くらい、こうして切り抜けてきたのだから、これからもきっと、そうするべきなのでしょう。