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マネジメントの力で良くしてみよう

足りないものを知る

マネジメントにおいて、十分に段取りをするためには、まず、足りないものを明らかにしなければなりません。

当たり前ですが、足りないものがわからなければ、十分に段取りができたかどうかわかりません。しかし、足りないものがわかる、というのはそれ程簡単なことではありません。今回は、そんな「足りないものを明らかにする」について考えてみます。

「足りないものがわかる」ということを、ビジネス用語で表現すると、「問題を発見する」ということになります。ご存知の方も多いと思いますが、これは、「問題」について、偉大な学者が定義して以来、広く知られることになったものです。私のブログでは2度目の登場ですが、ハーバート・A・サイモン教授が名著「意思決定の科学」において、「問題」を次のように定義しています。

問題解決とは、現状と目標との間の差異を発見し、その差異を減少させるのに適切な道具や過程を適用することだ

 

「問題」というと、一般的には、何か困った事柄や厄介な出来事など、良くない状態を表す言葉として使われることが多いので、ネガティブなイメージを持つ方もいるかもしれません。皆さんは、もし、「あなたの仕事振りには問題がある」と言われれば、どのような気分になりますか? おそらく、よっぽど変わった人でもない限り、腹を立てたり嫌な気分になったり、そんなことはないと反論したくなったりするのではないでしょうか。それは、通常、「問題がある」ことは悪いことであり、正面からそれを受け入れることができないからではないでしょうか。しかし、ここでいう問題とは決してそんなことはありません。ここでは、改めて「問題」を次のように定義しましょう。

 

問題とは、あるべき姿と現状とのギャップをいう

 

あるべき姿を実現するということは、問題の発見と解決を繰り返していくことに他なりません。このときの「問題」をどう捉えるかが非常に重要であるため、ここで改めて「問題」に対して、マネジャーがとるべき態度についてみていきます。

問題は作り出すもの

先に掲げた定義からすると、「問題」があることは決して悪いことではありません。むしろ、「問題がないこと」の方がよっぽど問題であり、問題はあるか無いかではなく、むしろ自ら作り出していかなければならないのです。 「問題」とは、あるべき姿と現状とのギャップであるため、問題がないというのは、あるべき姿と現状が等しい状態をいいます。このとき、現状は実績であり事実であるため変えることができません。そのため、あるべき姿と現状を一致させようと思えば、あるべき姿を現状まで下げることになります。つまり、問題がないということは、現状を維持することで満足している状態ということになります。

それでもなお、「今日のように、生活や経営を取り巻く厳しい環境においては、現状を維持できるだけでもいいではないか」という声が聞こえてきそうですが、一生懸命に現状と同じことを続けていても、生活様式が変化したり、競争相手の活動が活発になったりなど、外部の環境は、ものすごいスピードで変化しているため、これまでと同じ結果を維持したとしても、その結果は確実に低くなっています。つまり、現状を維持しているように見えても、その実質的な価値は低下していると言えるでしょう。

何かを実現したいと望むなら、チャレンジングな高いあるべき姿を掲げ、あえて現状との間のギャップを生み出す、言い換えると「問題」を自ら作り出していかなければなりません。

高く引き上げたあるべき姿を実現できずに終わるよりも、できそうな目標を達成する方が、モチベーションが上がるなどと悠長なことを言っている場合でもありませんし、なるべくあるべき姿を引き上げた方が良いなどという緩やかな推奨でもありません。成果をあげて生き残ろうと思ったら、そうせねばならないのです。

重要なのでもう一度書きますが、「問題」を自ら作り出さねばなりません。「問題」は悪などではなく、むしろ進んで生み出していくものなのです。

「問題」についての位置付けが少し変わりましたでしょうか。マネジメントにおいては、問題は積極的に作るものであり悪などではありません。この考えを全員で共有してください。日頃から問題を明らかにしたマネジャーを賞賛し、経営者自らも積極的に問題を明示して格闘する姿勢を見せなければなりません。

 

問題がない、はっきりしないのが悪

その一方で、あるべき姿を下げる、あるべき姿を明示しないのがマネジメント上の悪です。あるべき姿を描かず、現状だけを見ていたら問題がないものにされてしまいます。また、現状を偽ったり曖昧にしたりすると、問題がわからない、はっきりしないようにされてしまいます。これは、「問題」自体を悪だと捉えていることが原因です。問題を明らかにしない行動を発見したら、絶対にそれを見過ごしてはなりません。そして、「問題」の認識を変えてあげましょう。十分に段取りをすることの大前提は、取組もうとする問題をはっきりと議論のテーブルにのせることなのです。そうでなければ、あるべき姿など実現することはできません。「足りないもの」というのは、他者から与えられるものでも、自然に発生するものでもなく、自ら決めて作り出すものです。