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マネジメントの力で良くしてみよう

単位を小さくする

単位を小さくする

 

成果を上げるのに、もの凄く効果的な行動があります。しかも、もの凄く単純なことです。その名も、ショート・インターバル・コントロールといいます。なんか難しく聞こえる名前ですね。わかりやすく言い換えると、「単位を小さくする」ということです。今回は、そんなマネジメントに欠かせない、ある行動のお話です。

 

 大木に触ることができるか

例え話から入りましょう。ちょっと想像してみて下さい。あなたは、ある広い公園にいるとします。100メートル先には、とても大きな1本の木が生えています。その大木に向って、目をつぶりながら歩きます。このとき、次の3つの方法のうち、どちらが最も大木に近づくことができるでしょうか。

(1)一度も目を開くことなく大木に向って歩く

(2)20メートル進むごとに目を開いて方向を修正する

(3)1メートル進むごとに目を開いて方向を修正する

なぞなぞではありませんので、特にひねりはありません。大木に最も近づくことがえきるのは、間違いなく、(3)の1メートルごとに目を開いて方向を修正する、という行動でしょう。当たり前過ぎて面白くないかもしれませんが、もう少しお付き合い下さい。

(1)はまったく目を開いていないので、超人的な感覚の持ち主でなければ、大木からかなり遠ざかってしまうでしょう。百歩譲って、大木に触ることができたとしても、それは超人しかできなかったり、偶然だったりすると思います。つまり、それを再現することはほとんどできません。

(2)は20メートルごとに目を開いて修正するので、(1)よりも方向のズレが小さくなるでしょう。逆に言えば、最後の20メートルは、目をつぶりながら大木に向かわなければなりませんので、それなりに方向のズレが生じてしまい、大木に触れることは難しいです。
(3)は、1メートルごとに目を開いて方向を修正します。ズレが生じたとしても、1メートル進んだときにできる分だけですので、たかが知れています。おそらく高い確率で大木に触ることができるでしょう。
当たり前のことを、くどくど書いてきたのは、これがマネジメントになると、当たり前とも言えないからです。企業経営では、これがどのように起こっているのか、次で見てみましょう。

 

企業は目をつぶっている間隔が長い

ほとんどの企業が業績目標、すなわち、目指すべき数値が設定されています。もし、年度末を迎え数値が確定した段階で初めて実績値を集計し、目標値と比較したらどうなるでしょうか。おそらく、とんでもなく目標値を低く設定しない限り、実績値は目標値を超えていないでしょう。途中でどこまで進んでいるのか把握できず、成り行きで活動し続けて達成できたとすると、それは、担当者が超人的に優秀な人であったか運が良かったかのどちらかではないでしょうか。そこで、多くの企業が途中で達成状況を振返ります。

 

圧倒的に多いのが、「月に一度」会議を開いたり、資料をまとめたりして、達成状況を振り返っています。そもそもなぜ、月に一度なのでしょうか? おそらく、はっきりとした理由はないでしょう。月次決算に合わせているとか、皆で集まったり資料をまとめたりするのが大変なので、月に一度くらいでないと実行できないとか、ではないでしょうか。

しかし、これでも目標達成は難しいでしょう。少なくとも大きな成果を上げることはできません。なぜなら、2つの理由が考えれれます。
一つ目は、問題を解決できないからです。一月分まとめて振り返るとなると、かなり要約したものになります。日々起こっていることを大まかには記憶しているかもしれませんが、具体的な事実としては記録していないでしょう。せいぜい数値で表現できるものくらいしから記録にない。数値の背後にある事実はもはや正確につかめません。事実がわからなければ原因の追究ができず、有効な問題解決にはなりません。

もう一つは、30日も経過してから振り返っていては、手遅れになってしまうからです。振り返りの対象になっているのが前月の活動ですので、結果はすでに確定しています。後からその結果や活動をとやかく言ったところで、やり直しはきかないのです。

ほとんどの企業は月次会議をやっています。別に「月次」で行うことが、必ずしも悪いことだと言い切れませんが、是非一度「なぜ、この会議は月に一度行っているのか」と問うて欲しいと思います。何の疑問も感じずに「月次会議」をやっていること自体が成果を遠ざけているように思えてなりません。

 

答えは簡単❗ 単位を小さくするだけ


ではどうするか、もうおわかりですね。単位を小さくすれば良いわけです。「月次」で見直していたものを、「週次」や「日次」で見直すのです。たったそれだけ。シンプルですよね。このとき、目標からズレたものを特定し、挽回したり再発防止したりする行動を取れば、目標達成の可能性は飛躍的に高まります。考えてみれば当然ですが、単位が小さくなると、要約する範囲が狭くなり、より個別具体的に捉えることができますし、期限までの時間も残っています。騙すつもりはありませんが、騙されたと思って、単位を小さくしてみてください。効果てきめんです。これが、ショート・インターバル・コントロールです。単位を小さくして、解決行動を取る、それだけです。

MECEの使い方

MECEの使い方

MECEとは

何かを論理的に細分化するとき、MECEという枠組みを使うことがあります。課題を分けて、「やるべきこと」を見出すときも同じです。このMECEを使いましょう。定期的にビジネス書を読む方は、よくご存じと思いますが、念のため、MECEを確認しておきましょう。MECEとは、「ミッシー」とか「ミーシー」と読んで、集合を分けるときの技術です。抽象的な概念なので、難しいのですね。つまり、かたまりをどう分けていくのかを示したものです。何の略かを聞くと、普通、理解が進むのですが、MECEの場合はそうでもありません。MECEは、Mutually Exclusive and Collectively Exhaustiveの略です。これを知っても、難しい単語ばかりで、それほど理解が進まないですよね。
MECEを簡単に言い換えれば、集合を「漏れなくダブりもなく」分けていく、ということです。シンプルな例にするとよくわかります。例えば、「お客様」という集合を分ける場合、「女性」と「男性」に分ける。これは、すべてのお客様が漏れなく、必ずどちらかの区分に入ることになりますので、MECEになっていることになります。
では、MECEになっていないケースはどうか。極端な例ですが、「東北地方在住」と「過去1年以内に購入履歴がない」とに分けた場合、ある一人のお客様が、どちらにも該当しなかったり、両方に該当したりすることがありますので、MECEになっていません。
MECEにすることによって、重要な課題が漏れることを防ぎつつ、広がりを持たせながら課題を分けることができます。そうすれば、あるべき姿を実現するための「やるべきこと」を見出しやすくなります。「MECEになっているか」とつぶやきながら課題を整理してみましょう。

漏れがなければ何とかなる

実務で、MECEになるように課題を分けていくのは、簡単ではありません。それは論理的な思考が必要になるからです。思いつきや感覚で行動することができない人間はいないでしょう。それが人間の本能だからです。論理的に考えながら、MECEになるように集合を分けていくのは、慣れが必要になってきます。マネジメント改革プロジェクトで、管理職の方々に、課題を分けるための「イシューツリー」を作ってもらっています。作成例などを見せずに、プロジェクト目標達成のためのツリーを作っていただいた場合、最初からMECEになって、ツリーが出てくることはほとんどありません。なかには、作成例をお見せしたり、何度も具体的にフィードバックしても、漏れやダブりが解消していかないこともあります。こういったケースでは、見出したすべての「やるべきこと」を実行して、仮に意図したとおりの結果が得られたとしても、目標には到達しないということが起こります。「目標と現状のギャップを埋める」という課題から出発していますので、「やるべきこと」を完遂しても目標に到達しないのであれば、「分けた」ことにはなりません。「やるべきこと」が積み上がらなければ、運任せになり、マネジメントではなくなってしまいます。
そこで、課題の階層を上がったり下がったりしながら、サポートになる質問をして、何とか十分な「やるべきこと」を積上げていただきます。このとき、厳密なMECEにすることにはこだわらないようにしています。もう少し言うと、経験則では、厳密なMECEにこだわらなくても成果を上げることはできます。「やるべきこと」が十分に積み上がれば何とかなるのです。ダブりがあったとしても漏れがなければ「やるべきこと」は見いだせるものです。

MECEの限界

課題を分けきって、「やるべきこと」が出そろったとき、管理職の方に改めて、「目標達成できそうか」と問いかけます。管理職から返ってきた答えを聞いたとき、何となく目標達成の手ごたえがわかります。言葉では説明できないのですが、設計図を見て、実際に完成した姿がはっきりと想像できているような感じです。ときには、「まだ重要なことが抜けていませんか?」とか「本当に達成をイメージできていますか?」などと、しつこく聞いて、確認してみますが、自分たちで挙げた「やるべきこと」を本当にやり切ろうとしている人たちの言葉には、「強さ」を感じます。
この感覚は、課題を分けるときに、MECEになっていなくても現れます。過程を知らない人にイシューツリーを見せたら、すぐに「論理的に分けられていない」と指摘されてしまうような「おそまつな」ツリーであってもです。
MECEに限らずですが、技術は何かをうまくやるために機能しますが、人が決断をしたり、確信を得たりするような、感性を必要とする場面では、それほど機能しないのだと、つくづく思います。たとえ、MECEになるように課題を分けて、やるべきことを抽出しても、「できそうだ」と確信できなければ、実行して成果に結びつけることはできないでしょう。技術は大切ですが、少しくらい技術面が劣っていたとしても心理で何とかなる場面はいくらでもあるのだと思います。人が力を発揮するには、理性と感性の両方が大切ですね。

 

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課題を分ける

課題を分ける

全体から要素に分ける

「課題を分ける」ことは、あまり行われません。当たり前ですが、「分ける」というのは、大きなものを小さくするという意味です。なぜ、「あまり行われないのか」というと、課題について考える場合、個別の課題に気づいたり、洗い出したりすることはあっても、大きな課題を設定し、それを分けるということをしないからです。課題が頭に思い浮かんだときに、すでに小さいのだから、「分ける」という発想にはなりません。

マネジメントの場合、意図した成果を上げなければなりませんので、パッと頭に思い浮かんだ小さい課題から出発してはいけません。それでは、課題と成果の関係がわからず、本当にクリアすべき課題なのか、本当に取組むべき課題なのかがわかりません。これでは、限られた人や時間の制約のなかで、十分に段取りをすることができません。


前回の記事でも書きましたが、課題は、「あるべき姿と現状とのギャップを埋める」という最も大きいものからスタートしなければなりません。最初に全体をみて、それを構成要素に分けていく。逆に、構成要素を足し合わせていけば、当然、出発点であった全体像、つまり、あるべき姿と現状とのギャップが埋まる、ということになります。小さくした課題が、必ず全体像と繋がっている、課題を認識するときは、この構造が大切です。

kakemana.hatenablog.com

 

なぜ課題を分けるのか 

どのように分けるかを考える前に、なぜ分けるのかを考えます。「なぜ」を考えなければ本質はわからないからです。「どのように」が表面的なものになってしまいます。さて、なぜ課題を分けるのか。ものごとは反対から考えるとわかりやすいときがありますよね。ここでも逆から考えてみます。
もし、「あるべき姿と現状とのギャップを埋める」という大きな課題を分けずに、「やるべきこと」を導き出そうとすると、どうなるのか?
例えば、売上高を1億円増やす、というのが課題であった場合で考えてみます。売上を1億円増やすために、何をやるべきかと考えると、誰でもいくつか思いつくでしょう。

  • 値引きをする
  • 飛び込み営業をする
  • チラシを打つ
  • 有名人のイベントを開く
  • セット販売をする
  • 電話セールスをす

まあ、こんな感じでしょうか。何の関連性もなく思いつくままに挙げてみました。どれも売上増加に貢献する気もしますが、効率が悪そうな気もします。では、「飛び込み営業をする」をとりあげて、もう少し考えてみます。
飛び込み営業をするにも、いったい、誰のところに行けばいいのか、何を売ればいいのか、いつ行けばいいのか、何件行けばいいのか、どういうトークをすればいいのか、そして、どれくらいの売上が取れそうか、これらが決まらなければ、成果をあげるために必要な「やるべきこと」が導き出せたとは言えません。しかし、「売上高を1億円増やす」という大きな課題をベースに考えると、これらの要件は具体的に決められません。なぜなら根拠がないからです。商品という切り口から売上高を考えても、定番商品なのか季節商品なのかによって取組が異なります。また、お客様という切り口から売上高を考えても、新規のお客様なのか、既存のお客様なのか、既存のお客様でも、ライトユーザーもヘビーユーザーいます。どのお客様を対象にするかによって、「やるべきこと」は大きく異なるでしょう。

 

つまり、いろいろな課題が混在した大きな課題のままでは、成果をあげるのに有効な「やるべきこと」が導き出せません。思いつきと何ら変わらない行動で、しかも、これまでとさほど変わらないことしか出てきません。同じ思考回路からは同じような発想しか出てこないものです。したがって、課題は「もうこれ以上小さくする意味がない」というレベルまで分ける。これが成果をあげるポイントだと思います。

 

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どのように分けるのか

課題を分けるのは、意図した成果を上げるのに有効な「やるべきこと」を導き出すためです。
ここでも論理の力が効力を発揮します。「論理的に考える」とは、自分勝手な考えや一時的な感情で頭に浮かんだことではなく、すべてのものにあてはまる真理にもとづいて考える、価値観や文化の違いを超えて、広く認められたフォーマットで考える、ということです。そうすることによって、発想に広がりが生まれ、考えが整理できます。
私は、よくお風呂で子供と「山手線ゲーム」のような遊びをします。都道府県を全部言わないと湯船から上がれないというようなゲームです。このとき、ランダムに都道府県名を挙げていったのでは、漏れやダブりが連発し、なかなか風呂から上がれません。ところが、「東北地方」とか「太平洋側から」などと、分類したり法則を設けたりすると、漏れもダブりもなく簡単に挙げることができます。
課題を分けるのも、このゲームとまったく同じです。
「売上高」を考えた場合、いくつかの分け方があります。例えば、ざっと挙げても、以下のようなものが考えられるでしょう。

  • 「客単価」と「客数」
  • 「商品価格」と「数量」
  • 「ランチタイム」と「ディナータイム」
  • 「自宅用」と「ギフト」
  • 「見積発行件数」と「成約率」

業界によっても異なりますし、戦略によっても異なりますが、とにかく無数の分け方が考えられます。大きな課題をある切り口から分けて、小さな課題にしたら、またその課題を分けるようにします。上の例でいえば、「客単価」と「客数」に分けてみたら、次に、「客数」をさらに分けてみるということです。例えば、「会員様の数」、「会員ではないが定期的に来るお客様の数」、そしえ「一見客の数」というようにです。切り口がすっきりしなければ、別の切り口を考えればいいのです。そして、もう分けなくてもいいだろう、つまり、「やるべきこと」は同じだなと思ったら、課題を分けるのをやめる、ということです。

何事も同じですが、課題を分けることを繰り返していれば、うまくなります。目標を設定し、これまで通りにやったら、どれだけ足りないのかが見えてきたら、迷わず、課題を分けてください。それが目標達成の設計図になります。