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マネジメントの力で良くしてみよう

未来を想像する力

マネジメントは、「実現したい未来を想像する」ことから始まります。成果を上げるには、まず、「その成果がどのようなものであるか」を思い起こさなければなりません。
「ハチでさえゴールイメージを持つのだから」という記事で書きましたが、ハチのような原始的な脳でさえ、本能として脳内にイメージが持てる。では、何かをイメージするという点で、「人は何が違うのか」ということが気になります。

今回は、人の想像するチカラについて書きます。

 

kakemana.hatenablog.com

頭の中でいろいろと想像することは、我々にとってあまりにも当たり前です。そのため、この脳の機能を意識的に捉えている人は多くないでしょう。しかし、これほどの想像力を備えているのは人間の脳だけです。言い換えると、想像力は人間とは何かを定義する重要な要素です。

この人間の想像力について、賢人の教えを拝借しながら考えてみましょう。京都大学霊長類研究所松沢哲郎教授は、著書『想像するちから』において、遺伝子の構造上、人間に最も近いと言われるチンパンジーを通じた研究によって、人間とは何かという問いに迫っています。

 

松沢教授は、画面に数字を映し出す装置を用いてチンパンジーの記憶力を確かめる実験を行っています。その装置は、最初に「1」から「9」まで数字を画面に表示しておき、「1」の数字に触れた瞬間に「2」から「9」までの数字が白い四角形に変わって数字が見えなくなる構造になっていて、実験は記憶を頼りに順番通りに数字に触れることができるかどうかを確かめるというものでした。チンパンジーは画面を一瞬見ただけで「1」に触れ、白い四角形になってしまった「2」以降の数字をもの凄い速さで順番に触ったといいます。最初に「1」を触るまでの時間はわずか0.6秒で、しかもほとんど間違えることがなかったといいます。松沢教授によれば、これだけ速く正確にできる人間には会ったことがないそうです。瞬間的な記憶に関して、チンパンジーは人間を凌ぐ程に優れた能力を持っているようです。

 

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ところが、想像するちからとなると違ってきます。両目が書かれていないチンパンジーの似顔絵を与えると、チンパンジーは、なぐり書きをするか輪郭をなぞったといいますから、見たもののイメージをしっかり認識できていることになります。

これに対して、3歳の人間の子供に同じことをやってもらうと、輪郭をなぞるだけでなく、書き込まれていない目をその似顔絵に書き足したそうです。つまり、そこに見えたものをなぞるだけではなく、それが顔だと認識して、見えていないものを想像して書き込んだのです。

また、あるとき一頭のチンパンジーの首から下が麻痺して動けなるということが起こりました。非常にショッキングな状況にもかかわらず、そのチンパンジーはめげた様子もなく、それ以前とまったく変わることなく、人が近寄ってくると口に含んでいた水を吹きかけるいたずらをしたといいます。

これらのことから、松沢教授は、短い時間の予測程度であればできるものの、チンパンジーは、「今、ここの世界」に生きているのではないかとしています。これに対し、人間は、地球の反対側くらい遠く離れたものや百年もの過去や未来のことなど、目に見えないことも想像することができます。想像できる時間と空間の広がりが他の動物と大きく異なっており、想像するちからを駆使して、希望を持てるのが人間ではないかと結論づけています。

 

未来を想像し希望を抱くことは人間に与えられた力です。ヒトは想像することで行動を変え、文化をつくり、進化してきたのだと思います。
これはまったくの想像ですが・・・
先史時代においてヒトの祖先たちは、冬の厳しい寒さに耐えながら生活していた。「なんとか寒さをしのぎたい」そう考えながら目の前を見ると、皮がめくれかけた木が立っていることに気づく。次のような考えが頭のなかをよぎる。「木はすごいな。冬の寒いなかで立ち続けても、春になると元気に葉を茂らせる・・・」そこで、木の皮を身につけた自分を想像する。「きっと寒くなくなるんじゃないかな」
そう考えた当時のヒトは、木の皮を剥いで身につけてみる。すると確かに温かい。

こんなふうにして洋服を着るという文化が生まれたのではないでしょうか。もちろん、最初にやったヒトは「洋服」なんてことを知りません。すべては、想像してみることから始まったのだと思います。

 

マネジメントも同じです。目標値という単なる数字を追いかけても限界があります。ヒトはそのように進化してきたわけじゃないからです。
実現したい未来を思い描く。これはマネジャーの作法です。成果を上げることを使命とする者ゆえ、成果たる未来の姿を想像しなければなりません。目の前のことだけを考えているのであれば、チンパンジーと同じレベルです。

いま、もし単に目標値だけを追いかけている状態であれば、その数字を達成することの意義を想像してみましょう。順番は違いますが、それでも目標値の意味が見出せるはずです。意味を見出したときに、ぐっと成果が近づいてくることでしょう。

マネジメントは自分の想いを知ることから始まります。

 

(参考図書)