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後戻りをする行動

何か新しいことをやり始めても、なかなか定着せず、すぐに元の状態に戻ってしまう。こんなことありますよね。
今日は、後戻りしてしまう行動について考えます。

 

企業でも、やり始めたことが定着せず、後戻りしてしまうことはよくあります。業務のあちこちにその形跡が残っています。例えば、よくある残骸が「業務日報」です。「日報」というくらいですから、毎日記録し、報告されることを前提として、整備された仕組みのはずですが、毎日報告されることはなく、月末にまとめて提出されたりしています。内容についても、「業務日報」にはいくつもの項目が設けられているにも関わらず、ほとんどが空白で、書かないと誰かから怒られてしまう項目だけが、仕方なく記載されていたりします。このように、何かの目的をもって、「業務日報」という仕組みを導入しようとしたにもかかわらず、それ以前の状態に戻ってしまうことがあります。

 

後戻りをする経緯は不思議とどこでも同じです。概ね次のような流れで進みます。

まず、上司が仕組みのルールを破る。例えば、来年度の予算案を作るなど、日々やらないような業務に追い立てられたときにその瞬間はやってきます。「忙しい」というのを理由に、「業務日報」のフィードバックが劣化し始めるわけです。具体的には、その日のうちに部下にフィードバックしないとか、ただ、「見た印」として、ハンコだけを押して返却するなどです。

フィードバックの劣化を、部下はすぐに気づきますが、しばらく真面目に日報を提出します。しかし、部下にもXデーがやってきます。「どうせ上司は見てないんだから」と、部下が手を抜き出します。上司のフィードバックが劣化したことを理由に、期限までに日報を提出しないとか、内容を詳細に書かないなどが起こります。でもこのときの部下はまだ手探りです。「ちゃんと日報を書きなさい」と上司に指摘されるかもしれないからです。

しかし、上司は部下の手抜きを黙認します。部下が必要なことを期限までにやらないのに、上司は、その都度、指摘したり、是正させたりしません。やるべきことをやっていないのに、それを見逃してしまうのです。

これを受けて部下は、「日報を当初決めた通りにやらなくてもいい」と認められたように思うのです。

こんな流れで、いつの間にか、何かの目的をもって始めた新しい行動などはどこかへ行ってしまいます。

 

では、なぜこのような後戻りが起こるのか。

この背後には、何かができるようになるときに、必ず乗り越えなくてはならない壁のようなものがあります。それは、「意味がわからないことはやりたくない」という気質です。「こんなことやっても無駄だ」とか「効率が悪い」といったような感覚です。新しい行動の価値がまったく理解できなかったり、いかに重要かピンとこなかったりするわけです。例えば、「学校の勉強なんか一所懸命にやっても、社会に出て役に立たない」と言って、勉強することを放棄してしまうことなんかは、これに当たるでしょう。

実は、新しい行動の意味を本当に理解できることなど、ほとんどないでしょう。まだやってもないのに本当に理解できる訳がありません。

後戻りは、比較的早い時期に起こり始めますが、このとき、行動の積み重ねが十分とは言えません。新しい行動への理解も十分ではありません。つまり、よくわからない。だから、やりたくない。後戻りの原因は、人々のこういった姿勢にあると思います。意味がわかることしか取り込もうとしない。新しい行動はよく意味がわからないので、到底受け入れることができず、表面的に従っている。これでは、やらなくなるのも時間の問題です。これが後戻りの正体だと思います。

質の高い仕事

昨日は、質の悪い仕事について書きました。

kakemana.hatenablog.com

悪いことを知るだけでは良くなりませんので、今回はその反対である「質の高い仕事とは何か」について、まとめてみます。

突然ですが、あなたなら次の2つの質問にどう答えますか?

  • 質の高い仕事ができていますか?
  • なぜ質が高いと言えるのですか?

こんな哲学みたいな問いについて、じっくり考えたことがある人は少ないのではないでしょうか。
現代は、いろいろな業務をたくさん処理することが求められます。どうしても日常業務に埋没して、目の前のことをこなすことだけになってしまいがちです。それでも何とか改善していくためには、ときにこのような哲学的、根源的なことについて考えることは大切だと思うんですよね。
ブログや本のなかで質問されても、考えずに、次を読みたくなるところですが、上の2つの質問について考えてみてください。

考えていただけましたか。これは、つまるところ「質が高い仕事とは何か」ということです。ご自身の考えをはっきりさせていただいたので、次に、他の人の意見を共有しましょう。次の4つは、「質の高い仕事とは何か」について、プロジェクトや研修の場で、頻出する皆さんのご意見です。

・成果の大きい仕事(得られる売上や利益の金額が大きい)

・広く社会に貢献する仕事(世の中を変える、良くする)

・お客様のためになる仕事(ニーズに応える、喜ばせる)

・コストをかけない仕事(材料や時間などの投入が少ない)

 

どれも「確かに」と思います。私もそんな仕事がしたいと心から思います。ところが「質が高い」という視点は、上の4つの考えとちょっと違います。ここで、我々の考えをご紹介したいと思います。我々の考える「質の高い仕事」とは以下のようなものです。

 

質の高い仕事:要求された条件に一致した仕事

 

抽象的な定義ですから、ピンと来ない方も少なくないと思います。少しずつ言葉を足していきましょう。まずは、この考えの前提についてお話しします。

仕事には必ず「依頼者」が存在します。お客様や上司がそれに当たります。仕事のなかには、不特定多数のお客様に対して行うものや定期的に行う業務など、依頼をする人がはっきりしないものも少なくありません。しかし、それは依頼者の存在がはっきり掴めないだけです。仕事は必ず提供する人とその恩恵を受ける依頼者がいるのです。これが前提です。

次は、「質が高い」とは、どういうことかについてです。依頼者がいるということは、「要求されるもの」があるということになります。何をお願いされているのか、ということです。「質が高い」というのは、この要求に合致するものでなければなりません。高くても低くてもダメなのです。要求されたものよりも高いのであれば、「質が高い仕事」と言えそうですが、そうではありません。仕事は必ず経営資源を投じなければなりません。経営資源を必要以上に使いすぎるのは、機会損失が発生するので、やはり質は高いと言えないのです。軽自動車に高級車の部品を取り付けようとしてはいけません。要求された安全基準や快適さに合致したものを提供すれば、質は高いのです。
「質の高い」仕事をするためには、要求された条件は何かをはっきりさせることが肝要です。まずは意識することから、はじめませんか。

質の悪い仕事

今日は行動のお話です。
あなたも経験があると思います。「不用意な発言によって相手を傷つけてしまった」ということが。こんなときは、「あぁ、あんなこと言うんじゃなかった」と後悔すると思います。もし、その人と良い関係を築いていきたいのなら、素直に謝るなどして、間違いを認めた方がいいでしょう。このような発言は、「質が悪い行動」だったと言えます。どうして質が悪いと判断できるのかというと、不用意な発言によって、相手が「嫌な顔をした」とか「怒り出した」というように、「まずい」とわかるからですね。

ところが、仕事の場面では、質の悪い行動をしているのに、それがよくわからないが故に、繰り返されてしまう、ということが起こっています。今回は、世の中に溢れかえる質の悪い仕事について考えてみます。

次に紹介するのは製造業を営むある会社の営業部門の出来事です。ちなみに、これは「A Day in the Life」という、ある一人の仕事を一日観察することで、事実や認識を明らかにするという調査によるものです。

ある営業マンは、車で片道50分かけて得意先を訪問しました。到着すると先方の担当者は外出していて不在です。その営業マンは、訪問の証として、対応した女性に、通算しておよそ10枚目にもなる名刺を渡して、次の取引先に向かいました。営業車に同乗していた私は途中でその営業マンに尋ねました。

「先方の担当者が不在でしたが、どういう約束だったのですか」

するとその営業マンは答えます。

「約束はしてませんよ。今、うちの会社では訪問件数を増やそうという取組みをしているので、アポなんか取っていたら訪問件数を増やしにくいじゃないですか。それに日報に不在と書いても課長から何も言われないので、いいんじゃないですか」

私はさらに質問します。
「訪問件数を増やそうとする取組みは、何のためにやっているのですか」

営業マンは答えます。
「何のため?・・・契約を取るためじゃないですか。さっきの取引先は、大口の取引先なので定期的に訪問するんです。顔を見せるだけでいいというか、訪問して大切にしているということを示せばいいんですよ」

私の頭のなかは疑問で一杯になりながら、次の質問をしてみました。

「次に行く取引先は、今日、どうして訪問するのですか?」

営業マンはさらに答えてくれました。「次の先の担当者とは良い人間関係が出来ていて、正直、行きやすいんですよね。そんなに取引は大きくないんですけどね。訪問件数を増やさないといけないから・・・」

 

また別の営業マンとの同行では次のようなことがありました。
その営業マンは、新商品の導入を提案する商談でプレゼンをすることになりました。会場となる得意先の会議室に到着して、席につくと、想定していた人数以上の出席者がいたので、使用する資料が2部足りないことに気付きます。取引先の役職の偉い人から資料が配られ、肝心の現場担当者とその直属の上司は手元の資料がなく、スクリーンに写されたスライドだけを見て提案内容を理解するという状況で商談が進みました。
ところが、スライドはページの至るところが小さな文字で埋め尽くされ広い会議室では、その文字がまったくと言っていいほど読めません。しかも提案資料は40ページにもわたり、営業マンが早口で説明しているので、何が言いたいのかよくわかりません。スライドは約束の1時間の商談ではすべて説明することができず、最後の10ページは全く触れませんでした。帰り際に、先方の現場担当者が営業マンに近寄ってきて言いました。
「ちょっと、今日の提案はよくわからなかったので、後日、もう一度説明してもらってもいいですか?」

会社の帰路で、私は営業マンに質問しました。
「今日のプレゼンは、どういう計画だったのですか?」
営業マンはばつが悪そうに答えます。
「商談の約束をとりつけたんですが、細かい内容とかはすり合わせていないですよ。いつも会う主任から、課長が出席することは聞いていたんですが、まさか部長とかまで来ると思いませんでした。資料も、社内勉強会のやつを昨日加工したんですけど、うまく説明できなかったですね」

 

この営業マンの話はほんの一例です。その他にも、秋冬商品が入荷し店頭での販売が始まっているにも関わらず、販促ツールの新商品カタログが店舗に届いていなかったり、月次で品質保証部に提出するばずの不具合報告書が2ヶ月提出されず、設計上の不具合が改善されないまま、不具合のある製品を製造していたりなど、この類の話は世の中の至るところで起こっています。

いかがでしょうか。あなたの周りでも日々、同じようなことが行われているのではないでしょうか。
これらの仕事が厄介なのは、「まずい」ということがわかりにくいということです。当事者本人は皆「何となく良くない」ということはわかっていても、「もう二度とやってはいけない」という程の問題だとは認識していません。ですから、上司であるマネジャーにも報告されないので、マネジャーは、この事実を知ることすらできないのです。
これだけは、自信をもって断言できますが、「質の悪い仕事」は必ず、「必ず」ですよ、あなたが今日行った仕事にもあります。間違いなく、明日行う仕事にもあるでしょう。もちろん、私の仕事にもあります。そう思うことが、質の悪い仕事を減らす出発ではないでしょうか。