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想いは物語である

マネジャーが真剣に語った想いは、それ自体がまさに物語であると思います。しかし、私がまだ駆け出しのコンサルタントであったときには、この物語性をはっきりと認識できませんでした。多くのマネジャーの想いを聞いていると、何となく共通したところがあるなあと思うくらいでした。

物語性に気づくきっかけのは一冊の本との偶然の出会いでした。私はいつも2冊以上買うようにしています。これには理由があって、何気なく興味を感じて手にした「もう1冊」に良い本との出会いが多いという経験則があるからです。そのときも同じように、何気なく、「物語の法則 強い物語とキャラを作れるハリウッド式創作術」(クリストファー・ボグラーら著)に興味を持ち、電車のなかで早速読んでみると、本編以上に、なかで紹介されていたある本が気になりました。その本とは、偉大な神話学者であるジョーゼフ・キャンベル氏の著書『千の顔を持つ英雄』というものです。非常に長い本で、世界各地の神話について詳しく書いてあるのですが、もっとも面白かったのは、「時代や文化を超えて神話は同じ構成や手法が用いられている」ということでした。キャンベル氏によると、神話は、表現の方法は異なるものの、共通して「英雄の旅」と呼ぶ基本構造をもっているとしています。その構造は三つの要素から成り、簡単にまとめてみると次のようになります。

 

旅立ち:日常の世界から新たな領域へ冒険に出る
通過儀礼:厳しい試練に直面し、何とか乗り越えて、勝利を手にする
帰還:恵みをもたらす新たな力を手に、もとの世界へ帰る

 

キャンベル氏は、神話が、時を超えて、地理的に離れた場所でも同じ構造を持っているのは、人間の精神のなかに備わっている無意識の恐れや欲求などが強く影響していると述べています。

ここでふとある想いが頭をよぎりました。それは、「マネジャーの想いも同じような構造なのではないか」というものです。プロジェクトを通じて、本気になって自分の会社や部署を変えようとするマネジャーの言葉にも、神話と同じ構造をみることができるように感じたからです。

前回紹介した2人のマネジャーの物語を見てみると、自信なさそうに名刺交換をしている、もしくはお荷物の営業所だと認識されている現状を「嫌だ」と感じ、その現状からの決別を決意する(旅立ち)。そして、高い目標の達成を掲げそれに挑戦するも、部下が思うように動いてくれない、結果がなかなか出ない、という試練に直面して、これまでにない行動やスピードで努力を続け、新たなスキルや成果を手にする(通過儀礼)。最後に、堂々と名刺交換ができる存在感や独り立ちして自ら稼ぐという誇りとともに想いを実現する(帰還)。

どうでしょうか。

実際に、マネジャーに想いを語っていただくときには、最初に物語の話はしません。なぜなら、予め、「想いは物語だ」などと言うと心からの想いが出てこないからです。

「想いは物語である」とは、あくまで、心から想いを吐き出すときに、物語になることだと思います。スキルではなく、人間の本質なんでしょう。