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人の本性をどう見るか

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人の本性をどう見るか

 今回は「人間の本性をどう見るか」について書きます。いつもながらの定義ですが、マネジメントとは「人々の相互作用を通じて成果を上げること」ですから、関与する人々をどう見るかによって、相互作用の働きも大きく異なってきます。つまり、マネジメントにとって「人間の本性をどう見るか」ということについては、切っても切り離せない論点なのです。今回は、古来からある人間の本性の見方を振り返りつつ、マネジャーは人間の本性をどう見るべきなのかについて、考えます。


性善説性悪説
 「昔からある、あの話でしょう」という声が聞こえそうなので、予めお断りしておきます。ちょっと違う結論に至ると思いますので、騙されたと思って、最後までお読み下さい。
 あなたは部下や組織のメンバーを性善説で見ていますか? それとも性悪説で捉えていますか? この先をお読みいただく前に、ご自身の見方を、ちょっと確認してみて下さい。
 まずは2つの説を簡単に確認してみましょう。性善説とは、人間の本性は善であるとする説で、紀元前3世紀ころの中国戦国時代の儒者である孟子が説いたと言われています。孟子は、すべての人間の心にはもともと善の可能性が備わっていて、努力を重ねていけば、善の心境が芽生えてきて、やがて善の性質を持った人間(聖人君子)になると考えました。
 これに対して、性悪説とは、孟子より少し後の中国の思想家荀子が唱えた説で、人間の本来の性質は悪であり、善とされる者は、努力した結果、悪を克服した人間像のことであるとしています。つまり、人は先天的には、自分の利益を優先する性質が備わっており、善良な一面は後天的に矯正した結果であると説いているのです。
 経営者のなかでも、従業員を性善説で見ている方もいれば、性悪説で見ている方もいて、見解はさまざまですが、多くの経営者が「従業員を性善説で見たい、または見るべき」とは思っているものの、「結果を出すためには、性悪説で見ないとうまくいかない」という思いも持ち合わせているように思います。あなたはいかがでしょうか?

性弱説という見方
 部下や組織のメンバーを見るとき、性善説がよいのか、性悪説がよいのか、これまで多くの議論が繰り返されてきました。どちらが正しいのかについては、約2300年も前から論争されていますので、もちろんここで結論を出すことはできません。ここでは、マネジメントを実践する上で有効な「性弱説」という第3の考え方をご紹介します。
「性弱説」とは、人間の本性は「元来善であるが弱い」とする考え方です。この「性弱説」という言葉ですが、これを初めて聞く方もいらっしゃるのではないでしょうか。それもそのはずで、「性弱説」については、性善説性悪説のように歴史的な文献で提唱された訳ではありません。私の知る限りでは、一橋大学の名誉教授で経営学者の伊丹敬之氏が何度か書籍のなかで言及しているものの、詳細に解説されている書籍はありません。
 マネジメントの視点から見た「性弱説」とは、次のようなものです。

人はみな「良い仕事をしよう」と思っている。しかし、多くは普通の人間であり、当然のごとく弱さも持っている。だから、人は時には失敗し、良い仕事ができないことがある。

弱さが現れる5つの側面
 では、人間が持つ「弱さ」はどのように現れるのでしょうか。組織活動を前提とすると、「弱さ」は次の5つの側面として出現します。

1.思い込み
 人には「見たいようにしか見ない、聞きたいようにしか聞かない」という習性があるため、どうしても、固定観念、枠組みや常識にとらわれて、無意識にこれまでの考え方に引きづられてしまうという弱さがあります。組織内のコミュニケーションは、これらの思い込みによって、常に誤解の危機にさらされています。

2.現状維持行動
 人は慣れ親しんだやり方を好む習性があるため、どうしても、過去の成功体験に必要以上に固執したり、変化を恐れたり、自分が所属する小集団の利益を優先させてしまう弱さがあります。この心情が部下や組織メンバーの行動を歪め、その結果として全体最適が実現しないということが起こります。

3.知識経験不足
 当たり前ですが、人は、知らないことはその存在自体を認知できませんし、必要な能力が備わっていなければ、正確に理解することもできません。これは仕事に必要な知識や経験、情報が不足していることによる弱さです。企業では「やり切れる仕事」が「十分な情報」とともに割り当てられるとは限りません。

4.仕組みの不備
 人が集団になることによって生じる弱さもあります。組織には仕事を円滑に進めるための仕組みが不可欠ですが、その仕組み自体が確立されていないことによって個人の能力に過度に依存したり、また、状況の変化に合わせて仕組みが更新されていないことにより、仕組みがうまく機能していないことがあります。

5.あきらめ
 これまでの4つの弱さを実感するうちに、部下や組織メンバーは、自分の内にあらたな弱さを形成してしまいます。それが、「あきらめ」という弱さです。これは現状に対して無力感を覚えたり、あきらめによって言い訳を言ったりするようになります。これは「良い仕事をしたい・成功したい」という想いを断ち切ってしまうことになりかねません。


弱さを克服するには
 では、「性弱説」に立って人の本性を見た場合、どうすれば弱さを克服できるのでしょうか。これについても例外なく絶対的な答えはありませんので、目の前の現実に向き合って何とかするしかないのですが、経験則から得た1つの指針を示してみます。
 人はみな弱さを持っていることを直視して素直に認めましょう。部下や組織メンバーのことを完全に信頼しつつも、弱さが障壁となって良い仕事が出来ないことがあるという前提に立つことが大切だと思います。そして、その弱さはどこから来るのか探ります。そのためには、一人ひとりの心や内面にまで踏み込んでいかなければなりません。つまり、率直なコミュニケーションを重ねて彼らの本音を引き出して、具体的な行動の変化を起こしていくのです。弱さを克服するには、最終的に行動するところまで導くのが不可欠です。この行動変化の経験を積み重ねることが「性弱説」に立ったマネジメントの要諦ではないでしょうか。

最後に
 いかがでしたでしょうか。性善説性悪説も実務上ではどうもしっくり来ないという方は、「性弱説」という考え方を取り入れてみて下さい。日頃の働きぶりが良くない部下やメンバーについて、少し違う角度から見えるようになるのではないでしょうか。