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マネジャーを育てる

 

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マネジャーを育てる

いつもお読みいただきありがとうございます。
 多くの経営者が「マネジャーが育たない」と嘆いています。その理由は、指導・育成できる人材が不足していたり、資金的・時間的な余裕がなかったり、指導育成の方法がわからなかったりとさまざまですが、管理職が十分に機能せず、経営者が会社のなかを駆け回り、日常的な問題解決や業務指示を自ら行わざるを得ない状況に陥っています。
 マネジャーが育たない状況は、会社の研修制度を見ても明らかです。新人や一般中堅社員の研修は、OJT、メンター制度、社内の勉強会など比較的研修の内容が充実しておりますが、マネジャー向けの研修となると外部研修や外部セミナーの受講くらいに限られています。しかも、日常業務から一線を画した環境で、集団を対象に全体的かつ単発的に知識の習得を図るため、実践への具体的な適用が非常に困難になっており、研修の成果は極めて限定的といえるでしょう。
 多くの企業がマネジャーになる人材の育成に苦慮している現状を踏まえて、今回は、どうすれば、マネジャーを育てることができるのか、マネジャー育成のための原則について、考えます。

 

なぜマネジャーを育てるのは難しいのか

 マネジメントとは、人と人との相互作用を通じて成果を上げることをいいます。この「人と人との相互作用」も「成果を上げる」ことも、「こうすれば上手く行く」などという方法はありません。部下一人ひとり性格も価値観も違いますので、部下にどのように働きかけるべきかについて最適解などというものは存在しません。また、事業を成功に導くためのセオリーがあれば業績低迷に苦しむ企業は存在しないでしょう。マネジャーが活動するのは、極めて曖昧な「答えがない世界」になり、これがマネジャーを育てることを非常に難しくしていると言えるでしょう。なお、「答えがない世界」とはどのようなものか。これにつきましては以前記事を書きましたので、まだお読みいただいていない方は、是非、ご一読下さい。​

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マネジャーを育てる3つの原則

 「どうすればマネジャーを育てられるか」、これもまさに「絶対的な答えがない問い」ですから、マネジャーを育てるのは簡単ではありません。しかし、何も手掛かりもないわけではありません。ここでは、数多くの経験則を通じて得たマネジャー育成のための3つの原則をご紹介します。その原則とは以下の3つです。
  ①教える/知る
  ②問う/答える
  ③やらせてみる/見出す
 これらの3つの原則をうまく織り交ぜて、日常的にマネジャー候補者または新任マネジャーに働きかけるのがよいでしょう。以下の解説では、正確に表現したいため、「指導者」と「学習者」という言葉を用いておりますが、「指導者」を「経営者」と、「学習者」を「マネジャー(候補者)」と読み換えていただければ、わかりやすいかもしれません。


①教える/知る

 もっとも基本的な学びは指導者が「教える」という行為から生まれます。教えてもらうことによって、学習者は概念の内容や意味を「知る」ことができます。
 ある概念が存在することすら知らない場合には、自分がその存在を知らないことすら知りません。知らなければ、探すこともできませんし、探す必要があることも気付かないということになります。指導者が「教える」ことによって、学習者が概念の存在を知って、気付きの機会を増やすことができるので、「教える」ことは非常に重要な意味を持っています。
 最近は、「自分で考える」ことを重視するあまり、部下に「教える」ことを避ける風潮があるように思いますが、「教える」ことの意義をよく考えずに、徒に部下に考えさせてばかりでは、部下の育成には効果がないこともある、ということを忘れないようにしましょう。
 しかし、この「教える」ということは、マネジャーを育てることにおいては、十分ではありません。それは、マネジャーが取り組むのは、そのほとんど「答えがない問い」になるにもかかわらず、「教える」ことがもっとも効果を発揮するのは、答えがある場合がほとんどだからです。例えば、「KPIとは何か」のような問いがこれに該当します。これは概念の意味がある程度確立されていますので、答えを「知る」ことで終了です。しかし、「KPIを達成するために何をするべきか」というような絶対的な答えがない問いに対しては、「教える」ことは十分に機能しません。答えがないから、教えられないのです。
 もし、マネジャー向けの研修が知識獲得型の座学のみで構成されている場合には、十分に気をつけて下さい。それは、マネジャーが答えを出すための、材料を「知る」ことにはなるかもしれませんが、答えがない問題に取り組むのには、直接的に役に立つとは限らないからです。


②問う/答える

 マネジャーの2つ目の学びは、指導者が「問い」を投げかけ、学習者が「答える」というものです。指導者が提示した論点に対して、意見を整理して自分なりの答えを出すことで、検討すべき解決策を導き出すことができるようになります。マネジャーが日常的に取り組む、絶対的な答えがない問題は、答えの候補として複数の意見を出し、それらを比較衡量して相対的に答えを出すしかありませんので、この「問う」、それに「答える」というのが非常に効果的です。
 このとき大切なのが、指導者が投げかける「問い」の品質です。良い答えを導き出すためには、良い質問をしなければなりません。そのためには、オープン型の質問で、学習者に考えながら話してもらうように促すことが大切です。つまり、「なぜ…?」や「どうすれば…?」など、「はい」「いいえ」では答えられない質問を投げかけて、「意見」や「理由」などを自由に表現させるのです。
 学習者は必ず自分の意見を口に出して「答える」必要があります。そして、複数の意見を比較衡量し、決定することで「答え」を導き出すことになるので、出した意見に対する批判は甘んじて受け入れる覚悟が必要だからです。「周囲の人は自分の意見をどう思うか」などと恐れていては、マネジャーは務まる務まりません。
 ここで、「問う/答える」についてもう一つ付け加えておきましょう。「絶対的な答えがない問い」に「答える」場合、何とか「答え」を捻り出しても手応えがないことがほとんどですので、予めご承知おき下さい。つまり、答えがないのですから結論を出しても釈然しないということです。これはもう慣れていただくしかありません。

 

③やらせてみる/見出す

 最後の学びは、目標達成や課題解決に向けて、指導者が実際に「やらせてみる」ことによって、結果から何を「見出す」ことができたのかを学習者に振り返らせるというものです。「答えのない世界」で問題解決をするためには、何としても結果を出そうと必死に行動することがもっとも効果的な学びです。マネジメント力はそれを引き上げようとすれば上がるのではなく、望む成果を何としも出そうと試行錯誤して懸命に取り組むことで、初めて向上するものだと思います。
 ここで、注意していただきたいのは、経験から学びを「見出す」ためには、ただ懸命に取り組むのではなく、次の4つの要件を満たすように「やらせてみる」ということです。
  ・何を達成したいのかをはっきりと理解させる
  ・達成するために十分な準備をさせる
  ・背中を押して行動を促す
  ・すぐに結果を振り返って行動を改良させる
 指導者は学習者と一緒になって成果を生み出すことに付き合うことが大切です。学習者が独りでやってみるのではなく、「どうすべきだろうか」、「どういうことが言えるだろうか」などと問いかけながら成果を生み出す過程を伴走することが不可欠です。

 

最後に

 いかがでしたでしょうか。これまでの記事もそうですが、この記事もお読みいただいた方に「教える」つもりでは書いておりません。「マネジャーの育て方」なんて、「教える」ことができないからです。「どうすればマネジャーを育てられるか」という問いに対して、私なりの答えを書いたにすぎません。是非、皆さんも「どうすればマネジャーを育てられるか」という問いに真剣に答えを出してみて下さい。そして、実際にマネジャー育成に取り組んでみて、何かを「見出す」ことができたら、是非、その要点を共有して下さい。ともにマネジャー育成に力を尽くそうではありませんか。

答えがない世界で生きるということ

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答えがない世界で生きるということ

  いつもお読みいただきありがとうございます。
 組織のなかで活躍するには業務遂行能力に加えて、対人関係能力が必要になります。マネジャーになると、それらに加えて構想する能力も求められるようになる。マネジャーは実現したい将来を思い描き、そのための計画を立て、対話を通して人々を巻き込む。マネジャーはそういう役割を担うからです。マネジャーが生きる世界では、唯一絶対的な答えというものが存在しません。正解がない問いや、答えが1つとは限らない問いを立てて、それに対して答えを出す。マネジャーの活動とはそのようなものです。組織を動かす上では、この「答えのない」という性質が非常にマネジャーの活動を難しくしています。今回は、答えがない世界で、マネジャーはどのように生きていくのかについて、考えます。

答えがある世界

 答えがない世界とはどのようなものか。それを考える前に、答えがある世界を考えた方が話が早いと思います。答えがある世界とはどのようなものか。
 我々が学校で教わってきたこと、テストで問われてきたことは、原則として答えがある世界ですね。例えば、「1+1=2」、「大化の改新が起こったのは645年」などです。これらの答えがある問いは、答えを出したら、それで終わりです。唯一絶対的な答えがあるのですから、結論としての答えを出したら、それ以上議論をしても意味がありません。「私の場合、1+1=3だ」とはなりません。この世界では、答えをより多く、より正確に知っていることに価値が置かれます。
 では、答えがない世界とはどのようなものでしょうか。

答えがないことで陥りがちなこと

 唯一絶対的な答えがないということは、何でも良いということではありませんが、これが正解だと言い切ることもできません。答えがない世界で生きるのは非常に難しく捉えどころがないのですが、陥りがちな失敗には、典型的なパターンが見られます。代表的なものをいくつか挙げてみましょう。
・ 最初に良いと思った案が答えになる
・ 答えに納得が得られない
・ 影響力が強い人の意見が答えになる
・ 考えないで答えを出す
・ 答えを出すのにやたらに時間をかける
 いかがでしょうか? 最初に出た答えや時間をかけて出した答えが必ずしも良い答えとは限りませんし、多様な価値観を持つメンバーにいくら説明しても、答えがないのですから納得してもらえるとも限りません。お読みのあなたの会社でも当てはまるものがあるのではないでしょうか。

答えのない世界で生きるための要件

 答えのない世界では、文字通り答えがないのですから、一足飛びに結論に到達することはできません。一足飛びに出てきた結論は、勘や当てずっぽうと変わりありませんから、目の前の問題には良い答えが出るかもしれませんが、多様化・複雑化した現代の社会では、そうそう当たらないでしょう。
 では、どうすればよいのでしょうか。
 絶対的な答えがない世界では、答えを導き出すプロセスが非常に重要になります。そのプロセスは次の4つの要件を満たしている必要があります。
 ①議論する問いをはっきりさせる
 ②自分なりの答えを意見として出し合う
 ③出した複数の意見を比べる
 ④責任者が覚悟して決める
各々を簡単に整理してみましょう。

 

①議論する問いをはっきりさせる

 非常に単純な例に置き換えて考えてみましょう。
 店舗の開店祝いに「いちごのホールケーキ(大きな円形のケーキ)」を頂いたとしましょう。開店メンバー5人でそのケーキ分ける場合に、どのように分けたらよいでしょうか? この場合、「どのように分けたらよいか」というのが「議論する問い」になるのですが、この問いでは漠然としすぎていて、出した答えが良いのかどうか判断が難しいです。そこで、この問いをもう少し掘り下げて、はっきりさせてみましょう。
 「正確に均等にするには、どう分けるか」という問いにしたらどうでしょうか。この場合、答えとして、「イチゴの数と大きさを同じにする」という答えが導き出されるかもしれません。これに対して、「5人が納得するには、どう分けるか」という問いにしたらどうでしょうか。この場合には、「職位が一番下の人が切って、上の人から選ぶ」という答えが導き出せるかもしれません。このように、答えは一つではありませんが、問いをはっきりさせることによって、良い答えを考え出す指針が生まれます。

 

②自分なりの答えを意見として出し合う

 答えがないということは、正解も間違いもないということになりますが、どうすれば良い答えかどうか判断できるでしょうか。「唯一絶対的な答えがない」ということは、「相対的に答えを出す」しかないということを意味します。つまり、答えの候補として複数の意見を出し合って、それらを比較することで、良い答えを導き出すということになります。
 そのためには、常に自分なりの答えを持ち、それを口に出す必要があります。「発言しない人は、会議に出る資格がない」というようなことを耳にすることがありますが、問題解決型の会議では、間違いではないと言えるでしょう。特にマネジャーは、問題解決を生業にしているのですから、自分なりの意見を常に持って、積極的に発言しましょう。

 

③出した複数の意見を比べる

 答えのない世界では、「相対的に答えを出す」ことになりますから、意見を出し合った後は、それらを比較して、どれが最善なのかを判断します。
 この時、それぞれの意見について、思いつく限りメリットとデメリットを出して検討しましょう。自分とは違う意見に対しても、決して、頭ごなしに否定せず、まずは受け入れてみて冷静に検討することが肝要です。
 例えば、ある業務を、「外注すべきだ」という意見と「自社でやるべきだ」という意見が出たとします。「外注」の場合、ニーズに合う専門家の技術を活用できるというメリットがある一方で、自社にその業務のノウハウが貯まらないというデメリットが考えられます。反対に、「内製」の場合には、コストが低く変化に柔軟に対応できるメリットがある一方で、育成に時間と手間がかかるというデメリットがあるかもしれません。どちらの意見が良い答えなのかは、その時の状況や目的に合わせて検討すれば、判断は難しくないでしょう。

 

④責任者が覚悟して決める

 出し合った意見を比較した後は、もう決めるしかありません。唯一絶対的な答えがないのですから、いくら情報を集めても、比較して議論を続けていても答えには到達しません。答えがない世界では、答えは見つけるものではありません。つまり、「我々の答えはこれだ」と決めることで、「答えをつくる」しかありません。
 ただ、この「決める」というのは容易ではありません。なぜなら、決めるということは、結果に対して責任を負うということであり、出した答えに対する批判は甘んじて受け入れることを意味するからです。答えがない世界で答えを出すということは、そういうことなんです。

最後に

 いかがでしたでしょうか。答えがない世界で生きるということはどうことなのか、その世界で生きるマネジャーを念頭におきながら、できる限りわかりやすく書いたつもりです。この書き方にも答えがある訳ではありませんので、ご自身の経験と照らし合わせて、相対的にご自身の答えを出していただけたら幸いです。

人の本性をどう見るか

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人の本性をどう見るか

 今回は「人間の本性をどう見るか」について書きます。いつもながらの定義ですが、マネジメントとは「人々の相互作用を通じて成果を上げること」ですから、関与する人々をどう見るかによって、相互作用の働きも大きく異なってきます。つまり、マネジメントにとって「人間の本性をどう見るか」ということについては、切っても切り離せない論点なのです。今回は、古来からある人間の本性の見方を振り返りつつ、マネジャーは人間の本性をどう見るべきなのかについて、考えます。


性善説性悪説
 「昔からある、あの話でしょう」という声が聞こえそうなので、予めお断りしておきます。ちょっと違う結論に至ると思いますので、騙されたと思って、最後までお読み下さい。
 あなたは部下や組織のメンバーを性善説で見ていますか? それとも性悪説で捉えていますか? この先をお読みいただく前に、ご自身の見方を、ちょっと確認してみて下さい。
 まずは2つの説を簡単に確認してみましょう。性善説とは、人間の本性は善であるとする説で、紀元前3世紀ころの中国戦国時代の儒者である孟子が説いたと言われています。孟子は、すべての人間の心にはもともと善の可能性が備わっていて、努力を重ねていけば、善の心境が芽生えてきて、やがて善の性質を持った人間(聖人君子)になると考えました。
 これに対して、性悪説とは、孟子より少し後の中国の思想家荀子が唱えた説で、人間の本来の性質は悪であり、善とされる者は、努力した結果、悪を克服した人間像のことであるとしています。つまり、人は先天的には、自分の利益を優先する性質が備わっており、善良な一面は後天的に矯正した結果であると説いているのです。
 経営者のなかでも、従業員を性善説で見ている方もいれば、性悪説で見ている方もいて、見解はさまざまですが、多くの経営者が「従業員を性善説で見たい、または見るべき」とは思っているものの、「結果を出すためには、性悪説で見ないとうまくいかない」という思いも持ち合わせているように思います。あなたはいかがでしょうか?

性弱説という見方
 部下や組織のメンバーを見るとき、性善説がよいのか、性悪説がよいのか、これまで多くの議論が繰り返されてきました。どちらが正しいのかについては、約2300年も前から論争されていますので、もちろんここで結論を出すことはできません。ここでは、マネジメントを実践する上で有効な「性弱説」という第3の考え方をご紹介します。
「性弱説」とは、人間の本性は「元来善であるが弱い」とする考え方です。この「性弱説」という言葉ですが、これを初めて聞く方もいらっしゃるのではないでしょうか。それもそのはずで、「性弱説」については、性善説性悪説のように歴史的な文献で提唱された訳ではありません。私の知る限りでは、一橋大学の名誉教授で経営学者の伊丹敬之氏が何度か書籍のなかで言及しているものの、詳細に解説されている書籍はありません。
 マネジメントの視点から見た「性弱説」とは、次のようなものです。

人はみな「良い仕事をしよう」と思っている。しかし、多くは普通の人間であり、当然のごとく弱さも持っている。だから、人は時には失敗し、良い仕事ができないことがある。

弱さが現れる5つの側面
 では、人間が持つ「弱さ」はどのように現れるのでしょうか。組織活動を前提とすると、「弱さ」は次の5つの側面として出現します。

1.思い込み
 人には「見たいようにしか見ない、聞きたいようにしか聞かない」という習性があるため、どうしても、固定観念、枠組みや常識にとらわれて、無意識にこれまでの考え方に引きづられてしまうという弱さがあります。組織内のコミュニケーションは、これらの思い込みによって、常に誤解の危機にさらされています。

2.現状維持行動
 人は慣れ親しんだやり方を好む習性があるため、どうしても、過去の成功体験に必要以上に固執したり、変化を恐れたり、自分が所属する小集団の利益を優先させてしまう弱さがあります。この心情が部下や組織メンバーの行動を歪め、その結果として全体最適が実現しないということが起こります。

3.知識経験不足
 当たり前ですが、人は、知らないことはその存在自体を認知できませんし、必要な能力が備わっていなければ、正確に理解することもできません。これは仕事に必要な知識や経験、情報が不足していることによる弱さです。企業では「やり切れる仕事」が「十分な情報」とともに割り当てられるとは限りません。

4.仕組みの不備
 人が集団になることによって生じる弱さもあります。組織には仕事を円滑に進めるための仕組みが不可欠ですが、その仕組み自体が確立されていないことによって個人の能力に過度に依存したり、また、状況の変化に合わせて仕組みが更新されていないことにより、仕組みがうまく機能していないことがあります。

5.あきらめ
 これまでの4つの弱さを実感するうちに、部下や組織メンバーは、自分の内にあらたな弱さを形成してしまいます。それが、「あきらめ」という弱さです。これは現状に対して無力感を覚えたり、あきらめによって言い訳を言ったりするようになります。これは「良い仕事をしたい・成功したい」という想いを断ち切ってしまうことになりかねません。


弱さを克服するには
 では、「性弱説」に立って人の本性を見た場合、どうすれば弱さを克服できるのでしょうか。これについても例外なく絶対的な答えはありませんので、目の前の現実に向き合って何とかするしかないのですが、経験則から得た1つの指針を示してみます。
 人はみな弱さを持っていることを直視して素直に認めましょう。部下や組織メンバーのことを完全に信頼しつつも、弱さが障壁となって良い仕事が出来ないことがあるという前提に立つことが大切だと思います。そして、その弱さはどこから来るのか探ります。そのためには、一人ひとりの心や内面にまで踏み込んでいかなければなりません。つまり、率直なコミュニケーションを重ねて彼らの本音を引き出して、具体的な行動の変化を起こしていくのです。弱さを克服するには、最終的に行動するところまで導くのが不可欠です。この行動変化の経験を積み重ねることが「性弱説」に立ったマネジメントの要諦ではないでしょうか。

最後に
 いかがでしたでしょうか。性善説性悪説も実務上ではどうもしっくり来ないという方は、「性弱説」という考え方を取り入れてみて下さい。日頃の働きぶりが良くない部下やメンバーについて、少し違う角度から見えるようになるのではないでしょうか。